日高 2008.6.27(金)〜29(日)
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1839峰への想い日高山脈と言えば原始の面影を残す野生の山々がひしめく山域。 そんな訳で何時か訪れてみたい、この目で見てみたいと思ってはいたが、まだ時期尚早とこの山域以外の山々を楽しんでいた。 中日高の中でも主稜線から外れているためか、独特の鉄兜型の山容が何所からでも見ることが出来る1839峰。
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いよいよ1839峰へチャレンジする日がやって来た。
心配するカミさんに絶対無理はしないと約束して家を出る。
札内ヒュッテへは建設中止になった立派な日高横断道路を利用して何の苦労もなく行くことができた。
自然保護の為に中止された道路なのに、その道路を山と言う自然を楽しむ為に使うのは何か道義に反しているような忸怩たる気持ちが心の中に澱んでいる。
ヒュッテ前の駐車場で車中泊。
早朝沢装備を身につけ、札内ヒュッテから一本トンネルを抜けた先にあるコイカクシュサツナイ川へ下りる。
河原も広く流れは緩やかだ、何度も徒渉しながら進むが雪解け水なのかネオプレーンの靴下を通して冷たさが伝わってくる。
間もなく現れる2段の砂防ダムは右岸から巻き、次いで現れる最初の函は右岸に巻き道がついている、次の第2の函は左岸をへつる。
第2の函(上流から)
その後は何の変化も無い河原歩きを続けていると、急峻な尾根が見えて来た。
これが急坂で名を馳せているコイカクシュサツナイ岳(以後コイカクと言う)への夏尾根である。
夏尾根が見えて来た
自分の体でその凄さを受け止めてみようと静かに闘志を燃やす。
札内ヒュッテから約2時間、上二股へ着いた。標高640mである。
ここから夏尾根に取り付く、左股方向にはコイカクの山頂付近が見えていた。
山靴に履き替え、沢靴は枝に引っ掛けて留守番してもらう。
厚手の沢用のスパッツは岩からではなく、ハイマツから脛を守るためザックに入れた。
上二股(左股方向)
ここでの大仕事は水を汲むことだ。稜線上で水は期待できないので必要分を担ぎ上げる。
多ければ多いだけ稜線上での行動は豊になるが、担ぎ上げるのが大変だ。
少なくすれば担ぎ上げるのは楽になるが、後の行動が辛くなる。
学生時代、北アルプスで水を得られず本当に辛く苦しい体験をし、それがトラウマとなっている私は水に対しては臆病ですらある。
明日の行動用に3.5ℓ、テントでの生活用に2ℓ×2日で4ℓ、夏尾根の登りに2ℓ、下りに1ℓ、予備を合わせて計11ℓを担ぐことにした。
確かに重いが、あの死ぬような苦しみを味わうことは無い筈だ。
ずっしりと重くなった大型ザックを背にコイカクへの夏尾根を登り始める。
取り付きが判りにくいとの情報もあり緊張したが、赤テープもあり笹も雑ではあるが刈られていて道は明瞭、感謝の思いで登りにかかる。
標高1000m位までは笹被りの道、急傾斜で登って行く為か何時までも足下から沢音が聞こえている。
私が参加しているHYML(北海道の山メーリングリスト)で急坂ベストテン・コンテストを行ったことがあるが、確かこの夏尾根はベスト3に入っていたと記憶する。
何方かの計算によると平均斜度が30度を上回るとそうだ。
その急勾配の尾根に道はひたすら真っすぐ縦に付けられている。これが日高の日高らしい愚直な道なのだ。
ゆっくりで良いんだ、競争している訳じゃない。
1839峰へ行く為の登りだ、こんな所でへばっては居られない。
1300mで一旦平坦になり、テン場があり大休止。
再び急坂の連続となり、一番短くしたストックをダブルで最大活用。
木の根、笹、岳樺の枝、岩角、使えるものは何でも頼りにさせてもらう。
見上げる尾根、先は見えない
尾根は次第に狭くなり、特に右側は切り立って真下に落ち込んでいる。
油断するな! 緊張だ! 自分自身を叱咤する。
ピラトコミ、岩内、十勝幌尻など
C1500m位から視界も開けて来て、振り返るとピラトコミ山、岩内岳、十勝幌尻岳、札内岳などが目に飛び込んでくる。
登った山が見えれば良い山だったな〜と休み、登ったことの無い山を見ては何時かはと休む。
首が痛くなる程の急坂を見上げては休み、バテてはいけないと休む。
いくら何でもこの坂、愚直すぎないかい〜?
何度休んだことだろう。
目の前には夏尾根の壁しか見えなかったのが、突然目の前に何も無くなった。
いや、遥か前方に鉄兜、1839峰があるではないか!
左からコイカク岳、ヤオロマップ岳、1781m峰、前衛峰、そして1839峰と続く山々が出迎えてくれている。
夏尾根の頭から
夏尾根の頭だ。
札内ヒュッテから7時間半、計画より1時間半も遅れたが、ともかく辿り着いた。
初めて見る光景、浮き立つようで嬉しい。
想像していたよりずっと凄い迫力、素晴らしい。
ストックに体重を預け、出迎えてくれた稜線と山々にご挨拶。
夏尾根の頭に広がるおお花畑と1839峰
今日の予定はヤオロマップ岳まで、そうすればお天気さえ良ければ1839峰へ登れる確率は高くなる。
しかし、されど、事は思うようには進まない、それが人生。
夏尾根の頭に出るまでは辛いけれど、ヤオロまで行くぞと固く思っていた。
辿り着き、ヤオロマップ岳までの稜線の見た目の長さとアップダウンの多さに、モチベーションはすっかりダウンしてしまった。
ここは気持ちの良い楽園だ、美しいお花畑もある。さらに闘えと言うのは酷と言うものじゃないかい?
コイカク
腰が抜けたように座り込み、ただぼんやりヤオロマップ岳までを眺めていた。
「う〜ん、 今日はここまで!」決めれば気は楽になり、そそくさとテントを張り、ねぐらを整える。
ヤオロマップ岳(中央)
まだ時間は昼前だ。
担ぎ上げた水を使ってたっぷりのコーヒーを入れ香りを楽しみつつ、念願だった中日高の山々の景観に酔いしれる。
鉄兜を連想させる1839峰
1839峰は主稜線から西に張り出して独特の丸みを帯びた鉄兜のようなシルエットを見せて、孤高の山を主張しているかのようだ。
見る限り一部は50度近い斜度に見え、あんな所登れるのだろうかと思いながら見入ってしまう。
1643P,1823Pの向こうにカムエクウチカウシ山が見える
目を北側に転ずれば、稜線伝いに1643P、1823P、そしてカムイエクウチカウシ山、さらに北日高の山々が重畳と端座している。
山の他に人工の物など何も無い生まれたままの原始の世界だ。
昼からの半日間、山漬けの中で惚けたように過す幸せを味わい、翌日の1839峰への意欲を沸々と高めて行ったのだった。