雲に霞む雄鉾岳大岩壁
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雄鉾岳
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雄鉾岳の登山口近くには八雲町営の「八雲温泉おぼこ荘」とオボコ山の家の二つの宿泊可能な施設がある。
どちらも良い雰囲気の建物なので、時間があればどちらかに前夜泊して登山に備えては如何だろうか。
登山口にあるオボコ山の家
私は温泉に入って車中泊、気持ち良くぐっすり休むことができた。
所がである、夜半車の屋根を叩く雨音で起こされた。
ほぼ1週間振りに全道的に快晴と言う予報で今回の山行を決めたのに、どうなっているの?
朝まで断続的に驟雨があり、明るくなって外を見ると低い雲が凄まじい速さで動いている。
仕方なくゆっくり朝食を摂り、お天気の様子を見ることにした。登山口から100mほど離れている「オボコ山の家」、かつてこの地にあった鉱山の郵便局だった建物を使っているそうで、なるほど玄関前に赤い郵便ポストが立っている。
とても良い感じで、仲間とワイワイガヤガヤ利用させてもらうのも楽しいのでは?
7時過ぎ、時折青空がのぞき雨の気配は無くなった。
予報は快晴である、少しの遅れはあっても良くなる方向にある筈だ。
そう思い、準備を整える。雪があるかも知れないと足許はスパイク長靴を選択した。登山口には立派なコース案内看板が立てられている。
八雲ワンダーフォーゲルの人達の手によるものだ。
立派なコース案内が
銀山沢右岸に付けられた道を歩き、しばらくして沢へと降りていく。
これ以降、登山道の標識はあるものの道と呼べる道は山頂台地へ出るまで無い。
何度も徒渉しながら進んでいく。
水量は少ないが山靴だと濡れてしまうだろう、沢靴か長靴の方が良いと思われる。
途中少し緊張させられるへつりがあるが水面ぎりぎりの所を行けば足場もあるし手がかりもある。
滝などは沢中を行かず、低く巻きながら通過できる踏み跡がしっかり付いている。比較的新しいピンクテープがベタ打ちされルートを失う心配は全く無いけれど、視界の中に10近いテープが入り風情が無い。
何の目的なのか知らないが、自分たちが利用し終わったら外すのがマナーなのだと思うのだが・・・。ルートはやがて銀山沢を左に分けオボコ沢へ、次いでオボコ沢を右に分けカナケ沢へと入っていく。
この辺りから時々うっすらと雪をまとった雄鉾岳の勇姿が姿を現すが岩壁の上部は雲に隠され、かえって迫力が感じられ神々が群立する山の印象を強く受ける。
雪をまとった雄鉾岳の岩壁
雲が去り明るい陽光が燦々と降り注ぐ筈と期待しながら足を進めるが、雲が切れる気配はさらさらない。薄暗さが辺りを支配して、陰気な暗い沢のイメージだ。
やがて水場の標識がある二股に出た。
設けられた樋から冷たく美味しい水が流れ落ちているが、このお天気では喉の渇きも無い。
この付近からの岩壁は迫力満点、すごみすら漂わせている。
すごみすら感じされる岩壁
水場から右手の枯れた沢地形に入って真っ直ぐに岩壁に向かい、岩壁の基部へと急な登りとなる。
この辺りから積雪状態となり、水分たっぷりのグズグズ雪を踏みながらの登高である。
岩壁の基部へ達すると、そのまま南へトラバース。
岩肌から落ちた雪が小さなデブリのように所々溜まってトラバース道を塞いでいる。
上から滑り落ちる石や雪に気を使い、斜めに傾いた雪道に気を使う、気の抜けないトラバースである。
南へ南へと大岸壁に沿い、時折雲の切れ間から現われる元小屋沢山やC802mPを見ながら結構アップダウンのあるトラバースを進んで行く。
岸壁に沿ってトラバース、正面の山は元小屋沢山
やがて大岩壁に刻まれた涸れ沢状の沢地形を登るようになる。
ここが雄鉾岳の名物「ルンゼ」である。
ルンゼ
相当な斜度、おまけに周囲から落ちた雪が溜まり深い所では30cm近くある。
岩角が見えないので何度も岩肌を引っ掻いては滑る、こんなことを繰り返しながら登っていく。
こんな急な所だからロープが付いていても良いのにとボヤキながら両手両足総動員で登るが、グショグショ雪なので手袋が直ぐにびしょ濡れ状態、手が冷たい。実際はきちんとロープが何カ所も設置されていた。
雪で隠され見つけられなかったのだ。
何カ所もロープが付けられている(帰路撮影)
ルンゼは二段になっていて下が長く急で、上のは短い。
山頂台地らしい稜線空際が見えてきた。
山頂台地はもうすぐ
ルンゼを登り切ると海見平と呼ばれる所、視界が広がり日本海や太平洋が見えるのだと言う。
でも、雲の去就が激しく視界は100mほど。
風の音と霞む木々の影だけのお出迎えだ。
山頂も見えない
海見平からは笹に覆われた緩やかな斜面かと思っていたが、以外にアップダウンのある入り組んだルート。
周囲の状況を頭に入れながらしばらく歩くと、三角点とポールが立つ雄鉾岳山頂だ。残念ながら何も見えない。
時折明るくなるので風に吹かれながらしばらくコーヒーを飲んだりリンゴをかじったりしながら待ってみたが、結局晴れず雲の中だった。
せっかく来たのに残念無念・・・
足取り重く引き返す。
入り組んで要注意と思っていた所も自分の足跡を辿れば何の不安も無い。
ルンゼへの下降点にやって来た時だった。
スゥ〜と雲が切れた。振り返ると今まで居た山頂が見えている。
姿を見せた雄鉾岳山頂
西峰も姿を見せている。
遊楽部岳や冷水岳は見えないけれど、やっぱり嬉しい。そして海見平の名の通り、日本海が見えている。
太陽の光が当たり、金波銀波に輝いている。
日本海が神々しく見える
全く視界を閉ざされた状態からほんの僅かでも視界が開け景色を見られるのは、本当に嬉しいものだ。
思わず感謝、ありがとう!往路トラバース道から見えた元小屋沢山は中腹の一部しか見えないけれど、C802mPに日が当り幻想的だ。
晴れていれば何も思わず見過ごしてしまう景観が、視界が悪い中見えれば素晴らしく感じる。
気持ちの持ちようでこんなにも感じ方が異なる。
そう言う意味では、たまにはこんな体験をするのも大事な事かも知れない。
C802mP
ルンゼの下降、雪で滑り苦戦する。
雪に埋まっていたロープを掘り出し、助けを借りて一気に降りるが何度かバランスを崩して尻餅をつく。ズボンも手袋もずぶぬれで気持ち悪い。トラバース道からは八雲方面が一望することができた。
お天気は半日遅れで回復して来たようだ。
八雲方面の海岸線と太平洋が望めた
沢の下降はルートを間違える事は少ないが時間は結構かかる。
滑って怪我などしないよう慎重になりながらゆっくり降りていく。途中振り返ると、登る時には全く見えなかった雄鉾岳がその全容を見せ、また来いよと言っているかのようだった。
雄鉾岳
登山口へ無事戻って来た。
周囲の山には陽光が降り注ぎ、紅葉が最後の輝きを見せていた。
楽しませてもらった今年の紅葉もそろそろ終わりかな。
紅葉も見納め、美しい
今回の山旅、明日は冷水岳を訪れようと考えその準備も整えて来た。
お天気も明日は大丈夫だろう。
でも、持って来た手袋二組ともビショビショになっている。
一組しか持って来なかったズボンもしっかり濡れている。
車の中で乾くだろうか?どうしよう?
せっかく来たんだから、もう一日と言う気持ちも強い。
でも濡れた衣服に着替え寒い中歩き出すのは辛い。温泉に入りながらあれこれ考える。
もう歳だし、快適に歩きたい。
よ〜し、仕切り直しだ。
高速で帰れば夕方には帰れるだろう、カミさんに美味い夕食をリクエストしよう。