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縦走路
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空沼岳から札幌岳は距離的に見れば日帰りが可能であり、実際に日帰り山行の記録も幾つか見ることが出来る。
だが道中の笹の茂り具合や道の荒れ模様などが明確で無い道を70歳の爺が一人で歩くのに、日帰りでは無理があると判断した。
途中の万計山荘の泊まれば約4km短くなり安全上のリスクも少なくなる、そう考えて一泊二日の山行を考えた。初日の8.12(火)、空沼岳登山口までカミさんに送ってもらい万計山荘まで。
前日まで大雨を降らせた台風11号の影響か、空沼岳ならぬ泥沼岳と化したベチャベチャ道を歩くこと約1時間半で万計山荘へ。
途中の増水した沢や滝は迫力満点で中々の見ものであった。
増水し迫力を見せる滝
万計山荘は綺麗に清掃され整理されている使いやすい山小屋だ。
小屋には先着の学生さん6名ほどがおり、よろしくと挨拶して小屋の住人となる。この夜は縦走時の荷を軽くするために耐え忍ぶ一夜である。
コンロなど炊事用具は持たず、そのまま食べれるものだけを持ってきた。
寝具もマットやシュラフは持たず、シュラフカバーのみだ。学生さんたちは打ち上げなのか夜遅くまで賑やかに騒いでいたが、私は日没とともに就寝だ。
予報通り晴天を信じていた私、夜中小屋を揺るがすような風と雨音で目覚めた時は自ら寝ぼけているのだと思ったのだった。
朝3時半に目覚める、時間にしては外が暗い。
4時になって外を見ると、雨こそ降っていないがどんよりした曇り空。
全道ピカピカマークだった天気予報は何処に行ってしまったの?爆睡中の学生諸君を起こさないよう5時まで待ってパッキングをし、外にでる。
万計沼はさざ波に木立の影を映しながら静かに佇んでいた。
早朝の万計沼
予想外のお天気にテンションは下がり気味、それを自ら叱咤激励してザックを背負う。
薄暗い中、泥沼と化した道を進んでいく、やはり空沼には長靴がお似合いだ。30分ほどで真簾沼、眺めるこれから歩く稜線は雲の中でテンションは下がる一方だ。
対岸に何か動くものが居る、目を凝らすと30頭位の鹿が湖岸の草を食べていた。
札幌から支笏湖にかけての山に確実に鹿は増えている、それに伴ってダニが増えており注意が必要だ。やがて縦走路の分岐、ザックをデポし空沼岳山頂へ。
山頂は雲の中、何も見えない。
さて、どうしようかと思案しながら荷をデポしてある分岐へ戻る。ふと空が少し明るくなり低い雲の上に青空がわずかに見えた。
霧の雲なら日照とともに消えるだろう、いや消える筈だ。
そう無理やり自分を信じさせ、ザックを背負い縦走路へ足を踏み入れた。
「以外にチャンとしているな」歩き出した最初の印象だ。
両側は笹が密集しているが、道は見通せ邪魔にはならない。
2013年(昨年)に笹刈りした効果なのか、半信半疑だが道がしっかりしているのは有り難い。ところがそれは最初だけ、歩き出して間もなく地図上では1174mから1210m地点にかけての右に落ちる急斜面のトラバース、通常のトラバースでは道を平らに切ってあるのが普通だがここは笹を刈るのが精一杯なのか道は均されてはいない。
山の傾斜そのままに笹が狩ったラインが走っているイメージだ。
したがって乾いていれば然程ではないだろうが濡れていると滑る、笹を踏みつけざるを得ないだけに尚更なのだ。そんな時とても有難い存在が、これまた「笹」なのである。
笹に掴まりながら歩く、そうすれば滑っても笹が引っ張ってくれるので体勢を保持できるし、滑り落ちずに済む。同じ笹なのに、ある時は邪魔扱いされ、ある時は重宝がられる。
笹の持つ功罪なのか、人間の勝手な思いなのか?
空沼岳〜札幌岳の縦走路は稜線の東側と西側ではかなり性格が異なる。
稜線の東側は笹が濃密でしかも片斜面、笹に掴まりながら滑らないよう慎重に進むしか術はない。
一方、西側は斜面が緩く木々が多い、薄い笹を掻き分けながら歩くとスピード感が全く違う。東側ではこのままでたどり着くのだろうかと心配になり、西側では楽勝だと気が緩む。
そんな西側の道を進んでいると、どんよりした空に明るい青空が見え出した。
「神様、仏様、どうぞ晴れて下さい」
藪を漕ぐ腕にも力がみなぎってくる。
行く手に僅かな晴れ間が現れた。
正面に見たことのあるようなピーク、たしか冬に真簾沼から狭薄山へ向かう時、近くにあるピークだ。
とすれば、右方向には真簾沼があるはずだ。
1197mピーク
快調に1197mピークへ登っていく、右後ろを振り返ると真簾沼が薄い霧に包まれている。
やっとここまで来たという気持ちと、まだこれだけしか進んでいないと言う気持ちが交差する。
1197mピークから真簾沼を見る
1197mピークを過ぎ、相変わらず笹道との格闘が続く。
少し明るくなり希望が持てた空模様が夕暮れのようになり雨がふりだした。
「何ということをするの!」 思わず天に向かって悪態をつく。すでに濡れた笹でズブ濡れだから雨が降ろうと同じだが、気持ちの持ちようがぜんぜん違う。
滑るトラバース道を悪態をつきながら進んでいたら、笹に乗った足が滑り3mも滑り落ちてしまった。道には何ヶ所か山火事防止の大きな旗が木に取り付けられている。
作業をしている気配もないし登山者に対する注意喚起なのだろうか、そんなことを思いつつ歩いていると右手に池が、ヒョウタン池である。
冬場に近くを通っているはずなのに実際に池を見るのは初めてだ。
思っていたより大きな美しい池である。
ヒョウタン池
ヒョウタン池を過ぎ、雨はますます激しくなってきた。
何もかもビショ濡れだ。防水機能のないコンデジはすでに防水袋に入れザックに仕舞ってある。
その他に対処すべきものは?
念のため着替えを防水袋に移す。
ついでにパンを一つ口にする。すぐ左手にあるはずの狭薄山は雲の中。
次第に笹が濃密さを増し、傾斜も増してきた。
多分、1157mピークへの登り。
滑る! 頼みの笹を握る手も滑る。
足も笹を踏んで滑らないよう見極める。
所々しゃがんで探さないと道を外しそう。遅々として進まない、くそ〜!と思うがどうしようもない。
時間だけが刻々と経過していく。
辛かった1157mピークを乗り越え一旦下る。
そして次にピークが見え出した時である。右手の視界が急に開けた。
そこには、何と明るい陽光を浴びた札幌市街の風景があったのである。
雨の稜線から明るく晴れ渡った札幌市街地を見る
何というお天気なのだ。
冬にこの山岳地帯で雪が阻まれるのと同じ現象が、今起きているのだろうか。どうであれ素晴らしいお天気がすぐ隣まで来ているのだと思えば気持ちも軽くなる。
縦走路を歩き出して約3時間、札幌岳の豊滝コースとの合流点。
記憶ではここからは30分ほどだったような・・・。札幌岳の急斜面をもう一頑張りだと気持ちを奮い立たせる。
今日一番の急斜面だが、道はしっかりしているし笹との闘いもない。
岩場が出てきたと思ったら、見間違うことのない札幌岳山頂だった。
雨のそぼ降る札幌岳山頂、縦走を成し遂げた喜びはあまり無い。
何とか歩き切ったな! と言う程度の感慨である。山頂からの視界は全く無い。
狭薄山も見えないし、札幌市街地方向も何も見えない。取り敢えず、心配しているだろうカミさんに安着の知らせ。
何度も電話やメールを送ったのに何の応答もないので心配していたとのこと。
千歳でも昨夜は雨が降り、今日も曇り空だという。
何はともあれ、悪戦苦闘の末、無事札幌岳の山頂にいることを知らせる。
誰も居ない札幌岳山頂。
そうだよな、こんな天気の日に登る人は居ないよな。そう思いつつカミさんと話していると、後ろから「やっと着いた〜!」の声。
見ると男性二人連れがやって来た。
人恋しくなっていたのか、やたらうれしい気分。「こんにちわ〜」挨拶すると、一人の人が「たかさん?」
「はい」見たような人だ。「HymlのAです」
イチャンコッペ山の笹刈りや懇親会などでご一緒したことあるAさんだった。「駐車場に車はなかったから、自分たちが一番乗りだと思ってきたら人が居てビックリしました。どこから?」
「空沼からです」
「おお〜!」そんな話から旧交を温め合っていると、今まで雲に覆われ何も見えなかった西側が明るくなり、無意根山が姿を現した。
嬉しい〜!
無意根山、中岳、喜茂別岳、小喜茂別岳などが姿を見せた。
束の間姿を見せてくれた無意根山もふたたび雲に隠れ、三人で食事を取りながら楽しい会話が弾む。
Aさんと一緒の方は彼の山野草の師匠でもあり山仲間でもある方とか。
Aさんとお仲間
何も見えずすることも無くなって下山しようかと思いだした頃、今度は南側の空が明るくなり狭薄山の三角錐が大きく見え出した。
遠く見えているのは中山峠付近の山々だろうか。
狭薄山が姿を見せた
そして今朝歩き出した空沼岳が姿を見せ始め、恵庭岳や樽前山の姿も明瞭になってきた。
歩いてきた稜線がしっかり見渡せる。
改めて歩き通せた感動、感慨が胸に迫る。
歩いて良かった! 強く感じた瞬間であった。
空沼岳(中央左)がしっかり姿を現した。 右に恵庭岳、その後ろに樽前山
下山はAさんとご一緒することに。
「帰りはどうするの?」の質問に、豊平峡温泉からバスで札幌へと答えると
「それでは私の車で一緒に行きましょう」長い札幌岳の下山路を耐え、定山渓温泉で入浴してAさんに札幌駅まで送っていただいた。
お互いに何のしがらみも無いHymlの仲間の友情は、本当に有り難く嬉しいものだった。
Aさん、有り難うございました。
空沼岳・札幌岳の縦走を終えて正直な感想は、結構大変だったなである。
雨に濡れ、視界の利かない中、滑る道と笹との闘いなど悪条件が一杯の縦走であった。今後この道を歩かれる場合、まずは天気の良い日を選定して欲しいと思います。
この縦走路の場合、雨の日のハンデは通常の山行の何倍もあるように思います。次いでHymlなどが行う、笹刈り情報に注意してその直後に歩かれるとずいぶん楽に歩けるはずです。
今回は笹刈りが行われた一年後でしたが笹の成長は早く手間取りました。
二年後、三年後は更に大変になること請け合いです。
ぜひ情報を上手く活用して頂きたいと思います。