雨竜沼湿原

増毛  2017.8.2(水)  霧


 

イヌゴマ

 

雨竜沼湿原は私達のお気に入りの場所、これまでに何度も訪れている。
そのたびに新たな発見があり、新たな感動がある所なのだ。
何も知らず初めて訪れた時は「北海道に尾瀬があるんだ」と思い、雨竜沼のことを知るにつれ「北海道の宝」だと感じるようになった。

最近の雨竜沼への関心の高まりは嬉しく思うのに、この2・3年何となく足が遠のいていた。
体調と相談、8月初めに再訪してみる。いつも相棒のカミさんは娘一家が夏休みでやってくるのに備え奮闘中、従って今回は単独行である。

 

霧の雨竜沼湿原

晴れるとの予報だった雨竜町の朝は曇り空、そのうち晴れてくるだろうと湿原入口のゲートパークへ。
入山手続きを済ませ歩き出すが、登山者の姿はまばら。

小さな黄色のキツリフネや大きな白花のエゾニュウなどが咲く湿原から流れ出ているペンケペタン川沿いの道を緩やかに登っていく。
白竜の滝付近には、エゾアジサイの青い花がまだほの暗い樹林の中で咲き競っている。

アゾアジサイ
エゾアジサイ

 

第2吊橋を渡り、左岸沿いの斜度を増した道を淡々と湿原へ。
晴れるどころか、霧が出始めどんどん濃さを増していく。
間もなく湿原入口という辺りでは、濃霧で見通しは100mも無いぐらい。

霧
霧のペンケペンタ川

 

晴れて暑い日には貴重な沢沿いの水場は、いつもと変わらずコンコンと冷たい水が湧き出している。渇きは無いが、挨拶代わりに一杯いただく。

歩き出して1時間半弱、湿原の入り口で靴底を洗い「お久しぶり」と湿原に足を踏み入れる。
8月というのに、濃霧の湿原は立ち止まると寒いぐらい。
これなら熱中症の心配は不要と強がりを言い、霧に濡れた花たちを愛でながらのんびり湿原を歩く。

霧に濡れた草むらにツルニンジンが咲いている。
普段はあまり興味を感じさせない花だけど、ひそやかに濡れそぼつ花の風情に惹き寄せられる。

ツルニンジン
霧に濡れそぼつツルニンジン

 

サワアザミが沢山咲いている。この花にも普段関心を示すことはあまり無い。
でも霧の粒を無数に付ける姿には愛おしさを感じる。
蜘蛛の巣とコラボしている花の風情には、思わず降参してしまった。

サワアザミ
エゾノサワアザミ

 

湿原を縦横に走る小沢の傍にクガイソウが立ち並んでいる。
青空と太陽の下では強さを感じさせるクガイソウも、霧に霞むと優しげに見える。

クガイソウ
クガイソウ

 

直径5cmはありそうな穂が綿毛を濡らしている。
なんだ? よく見ると傍にクロバナハンショウヅルの花が咲いている。
こんな大きな穂をつけるんだ・・・初めて見たように思う。ミヤマハンショウヅルも同じなのかな?

ハンショウヅル
クロバナハンショウヅルの穂

 

咲き出したばかりのサワギキョウの花が霧に負けず輝いている。
やはり旬の花には勢いがあり華やかだ。

サワギキョウ
秋を感じさせる サワギキョウ

 

霧の花園

少し大きめの沢のほとりが花園になっている。
種々雑多な花々が入り混じり、ミルク色の空気に攪拌され優しい表情で迎えてくれる。
「いや〜! 霧の湿原も良いものだ」と思わせる景観である。

花園
湿原の群れ咲く花々

 

濃霧で霧雨の雨竜沼湿原を歩く人影はわずかで、俯き加減の急ぎ足。

でも濡れるのをいとわず、のんびり歩くと思わぬ発見もあるものだ。
気になる所では、木道に座り込んで観察したり撮影しても誰の邪魔にもならない。



花園
湿原の花園

 

見慣れぬ花を見つけた。
茎に曲がったくちばし状の薄いピンクの蕾を付け、花はくちばしの蕾が唇のように開いて咲く。

エゾイヌゴマ

くちばし状の蕾を見て、シオガマの仲間かと思ったが、調べてみたらシソ科のエゾイヌゴマであった。
これも初めて見る花だと思うが、今の時期が花時なのか沢山咲いている。
カミさんに良いお土産ができたと、丹念に写真を撮る。

 

この時期、雨竜沼で最も多い花がタチギボウシ。すでに盛りを過ぎた花も多い。
その中で白のギボウシを見つけた。アルビノ種なのかな?
木道から手をいっぱいに伸ばしても、2m以上。
中望遠のレンズで撮ったものをトリミングしたのが、この写真である。

タチギボウシ
白のタチギボウシ

 

普通のタチギボウシは選り取り見取り、沢山咲いている。

タチギボウシ
タチギボウシ

 

霧 薄る

湿原を彷徨うように歩くこと約2時間、全く見えなかった周りの視界が2・300mに回復し、湿原を囲む木々がかすかに見え出した。と言っても暑寒別の山々の気配は全く感じられない深い霧には変わりない。

霧の花園
シモツケの花の向こうに、木々の影が見え出した。

 

湿原には大小幾つもの池塘があり、その景観や水辺に咲く花も楽しみな存在だ。
大きな池塘に黄色のコウホネが鎌首を持ち上げるように咲いている。
水面に浮かぶ葉と花の風情も粋なものだ。

コウホネ
コウホネ

 

コウホネは結構な数咲いているが、ヒツジグサは見られない。
今回もお預けかな。

鮮やかなピンクのシモツケが目立つ所が何箇所も。
私は白や青の花が好みなので、この花は派手なだけとあまり好きになれなかった。
でも見慣れてくるとなかなか繊細で表情も豊か、段々見るのが楽しみになってきた花でもある。

シモツケ
エゾノシモツケソウ

 

黄色の花を付けた大ぶりの草も結構目立つ。
高さは1m〜1.5m位、ハンゴンソウかと思ったけれど葉の様子が違うような・・・。
図鑑を引っ張り出すと、セリ科のホタルサイコのように見えた。

ホタルサイコ
ホタルサイコ ??

 

霧はさらに薄くなり、湿原を取り巻く山々の裾野が見え出してきた。
雨竜沼らしい景観が広がりだして、嬉しい。

雨竜沼
ナガボノシロワレモコウ、タチギボウシが咲く湿原の一部

 

もしかしたら霧が晴れるかもしれないと、湿原から外れ南暑寒別岳の登山路へ足を向ける。
シナノキンバイが咲く道からダケカンバ主体の道へ、展望台を過ぎしばらくして雲の中に入り霧雨状態。
こりゃダメだ。すっぱり諦め湿原へと戻る。

小さな沢沿いに、多分今回一番多く見られるだろうと思っていたヒオウギアヤメが咲いていた。
時期が過ぎたのだろうか、他では全く見られず不思議に思っていた花だ。
不思議と言えば、エゾカンゾウの花が一輪も見られなかったのも不思議ではある。

ヒオウギアヤメ
ヒオウギアヤメ

 

そう言えば撮影の邪魔だった棒状の茎があちこちに。
もしかしたらヒオウギアヤメやエゾカンゾウは食害にあっているのかも知れないな。

新たに出現した池塘に、白い点々がばら撒かれている。
木道から離れているためよく見えないが、どうやらヒツジグサのようだ。

ヒツジグサ
池塘の中に白い点々が・・・

100mmの中望遠レンズで撮ったものを、さらに限界近くまでトリミングしてみると

ヒツジグサ
ヒツジグサ

間違いなく、ヒツジグサである。
贅沢を行ったらキリがないが、もう少し近くで見たかったな〜。

 

湿原散策も終盤、少〜しづつ見えてきた湿原風景を眺めながらゆっくり歩く。
コガネギクが私の出番とばかり、旬の美しい姿を見せている。

コガネギク
コガネギク

 

普段だったら気にもしない草むらの花園、しっとりした気配の中で調和し合って咲いている。
アザミ・イヌゴマ・オトギリ、ホタルサイコ、クガイソウ、ギボウシ・・・、みんな仲良く平和に生きている姿か。

草むら
草むらの一隅に咲く花園

 

その一方、僅かに残っていたワタスゲは霧に濡れた綿毛が今にも剥がれ落ちそう。
図らずも生き残った老人の悲哀を感じさせ、思わず我が身と重ね合せてしまう。

ワタスゲ
ワタスゲ

 

白竜の滝

正午近くになり霧は少しづつ晴れてきたけれど、暑寒別の山々は姿を隠したまま。
また会いにくるよ! と言い残し、雨竜沼湿原に別れを告げる。

夏休みの思い出にやって来たのか、登ってくる親子連れと挨拶を交わしながら下山。
白竜の滝音に誘われ、久しぶりに滝壺まで降りてみる。

白竜の滝
白竜の滝

 

比較的整った姿の滝、登山道から見下ろすのも良し、滝壺から見上げるのも良しである。

白竜の滝
白竜の滝

 

今回の雨竜沼湿原、濃霧に覆われ雄大な広々した景観は望むべきもなかったけれど、露をまとった花々はしっとり落ち着いた表情を見せてくれ、晴天時とは一味違った素晴らしさであった。

濃霧に巻かれても、さほど危険を感じることも無い雨竜沼湿原。
雨の風情・表情を訪ねてみるのも粋ではなかろうか。

 

 

 

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