朋あり遠方より来る
昨年から時折連絡をくれる友がいる。ご夫婦で北海道の山を登りたいと言うのだ。
勿論 Well Come である。
昨年9月に初めての来道、9/6の朝5時半に千歳の道の駅で待ち合わせの約束をしていたところ朝3時過ぎに胆振東部地震が発生、千歳も震度6の揺れに襲われたのだった。
今年は風不死岳に登りたいとの希望から、6/21朝7時に樽前山7合目ヒュッテで待ち合わせ。
久しぶりの再会を果たしたが、濃霧に巻かれ霧雨が降るお天気に登山は再度の延期を余儀無くされた。その朋(友)とは、北アルプス剱岳の北東側、通称「裏劔」に建っている山小屋「仙人温泉小屋」のスタッフで群馬在住のTNさんご夫妻。
私が2010年9月に劔岳を訪れた際に温泉小屋でお世話になり、下山時に黒部渓谷十字峡まで歩く私に途中まで同行してくれた人である。TNさんの風不死岳三度目のチャレンジは6/25。
朝6時に樽前山7合目ヒュッテで待ち合わせ、千歳市街地や支笏湖道路は霧に包まれフォグランプを点ける程だったが7合目は晴れていた。
まさに「三度目の正直」。
ただ6/21は同行予定だったカミさんがこの日は他の予定との絡みで、ご一緒出来なくなったのは申し訳ないことだった。
花が遅れてる〜
挨拶を済ませ、勇躍出発する。
予定ルートは、ヒュッテからお花畑を経由してまっすぐ風不死岳へ、帰路932m峰から樽前山の外輪を歩き西山へ、そして樽前神社奥の院を詣でて東山から下山するものである。歩きながらご夫妻には私の体力が急激に落ちていること、ゆっくりしか歩けないことから我慢できなくなったら遠慮無く先に行って欲しい旨を伝え、お願いした。
樹林を抜け一気に視界が開けると、歓声が上がる。
支笏湖と紋別岳が「ようこそ!」とお出迎え
千歳市などは雲海に覆われているが支笏湖と紋別岳だけが浮かんでいて、何よりの歓迎のご挨拶である。
何時もこの時期には満開の美しい花々を見せてくれるイソツツジやマルバシモツケ・ウコンウツギなどの花が遅れていて、寂しい情景なのが残念だ。
カメラを構える私と風不死岳、支笏湖 (TNさん撮影)おしゃべりを楽しみながら石尾根を登り風不死岳への分岐へ。
視界が良ければ日高山脈主稜線や夕張山地が眺められること、支笏湖周辺の火山の歴史や樽前山溶岩ドームの特性なども簡単にブリーフ。
TNさんご夫妻
核心部へ
道は樽前山から風不死岳の領域へと移り、開けた砂礫地から樹林に覆われた岩の領域へ。
名物の鎖場、劔岳の岩場とはレベルが違い過ぎるがそれなりに楽しんでもらう。
鎖場を登るTNさん偽ピークの一つをやり過ごし、深い樹林の中に忽然と現れる小さな湿地。
深い樹林の小さな湿地
ご夫妻も「綺麗な良い所だな〜」と嬉しそう、実は私の好きな場所でもあるのだ。
特に、雪解け時期の雪と水たまりと緑のコントラストが美しいのだ。そして最後の偽ピークへの斜面を登り切れば、風不死岳の核心部は終了だ。
霞よ、飛んでけ〜!
歩き始めて2時間20分、風不死岳山頂である。
期待通り支笏湖ブルーが広がっている、あれっ支笏湖だけじゃなく周囲一面が青まみれ。
朝方の霧の影響か、空気中の水分が多いのか霞のベールで遠くの山々が消されて空色に染められているのだ。
風不死岳山頂から支笏湖と恵庭岳(正面)
支笏湖の湖面に映る雲はとても綺麗なのだが、肝心の大景観はお預け状態。
「霞さん、お願いだからどこか遠くへ飛んで行って〜!」
風不死岳山頂から支笏湖の西側「少しお腹を満たしましょうか?」まだ8時半過ぎだが、小腹も空いた。
私が持参のおにぎりを食べ始めると、TNさん達の様子が少し変。
何と、食べ物をすっかり車に置き忘れてきたと言う。予備として持ってきたパンとドライフルーツを差し出して、ちょっぴりだけどそれで我慢して頂く。
風不死岳山頂で記念の一枚
約30分ほど風不死岳山頂での滞在を楽しんだ、結局霞は消えず大景観はお預けのままだった。
全容を見せはじめた樽前山の姿を堪能し、その外輪山目指して風不死岳を後にする。
風不死岳山頂からの樽前山
外輪山と溶岩ドーム
風不死岳山頂を後にして、来た道をそのまま引き返す。
最近は何でも無い下りでバランスを崩すことがあるので要注意、TNさんご夫妻に余計な心配をおかけしたく無い。秋口にはミヤマダイモンジソウが咲く大岩地帯、そして鎖場を慎重に下る。
鎖場を下る、TNさん奥様
岩場よりなだらかな砂礫地の下りの方が、今の私にとってはバランスを崩す難所である。
少し後傾になっているのかな? その砂礫地が多い、樽前山エリアに戻ってきた。
932m峰から外輪山へ、左右に開けた景観が広がる。所々霧の足跡がまだ漂っている。
932m峰付近からホロホロ山・白老三山樽前山エリアに入ると、タルマイソウ(イワブクロ)の姿が目立つようになる。
皆、咲き出したばかりの旬の美しい花たち。
TNさん、タルマイソウと溶岩ドームのコラボ写真に何度もチャレンジだ。
タルマイソウと溶岩ドーム(TNさん撮影)日本はもちろん海外の山も数多く歩いているTNさん、それでも溶岩ドームの一種異様な景観は気になるようで写真を何枚も撮っている。
怪獣など色々な形に見える溶岩ドームから突き出た岩が面白いようなのだ。
溶岩ドームに見入るTNさんご夫妻外輪山をのんびり花とドームを眺めながら散策、やがて西山へ。
太平洋上は霧で真っ白、雲海の太平洋も一興だろう。
樽前山西山 ドームをバックに
奥の院 詣で
風不死岳と樽前山、性格の異なった二つの山を巡ったことをTNさんご夫妻には殊の外喜んで頂けた。それが私にもとても嬉しい。
外輪山の中ほどにある「樽前神社奥の院」では、今回の山行の御礼と友情の絆がさらに深まるよう願ってお参りした。
お参りの最中、私の脳裏に一株の美しい花が浮かんだ。
20年近く前から樽前山の過酷な環境が好きになり定着して、美しい花を咲かせ続けた。
楽しみに見に来る人も年々多くなったのだが、国の環境を守る役目のお偉いさん方の「外来種だから」の一言で、密かに全てが無残に殺戮され一輪残らず駆逐されてしまった花。
私が自ら手を下した訳ではないが、その花を悼んで手を合わせこうべを垂れた。
困(コマ)った草(クサ)だったのかい?
また楽しからずや
外輪を歩き東山山頂と7合目ヒュッテとの分岐へ、時間は11時45分である。
TNさんご夫妻はこの山行を終えたら午後の便でお帰りの予定、できれば12時までにヒュッテに戻りたいと言っていた。
東山山頂を経由しては間に合わない、お許し頂いてまっすぐ下山する。
私の鈍足のせいである、ご夫妻だけだったら予定のコースを余裕で歩けたはず。ごめんなさい。無事下山し、ヒュッテでお別れのご挨拶。
たまたま山小屋で一緒になりお世話になったという間柄、一期一会ではないがお互いが出会いを大切にした結果、今回の喜びと嬉しさを感じることができたのだと思う。これからも変わらず、思いやりの交流を続けましょうと約束してお別れした。
「TNさん、来てくれて本当にありがとうございました。これからもよろしくね。」