ホロホロ山
ホロホロ山は道央の白老町と伊達市大滝にまたがる山域にあり、隣の徳舜瞥山とは稜線で結ばれている山である。
登山ルートは大滝側の登山口から徳舜瞥山を経由するルート、白老町側の登山口から直接登るルート、大滝三階滝にある工芸館からのルート、ホロホロ峠からのルートなどがあるが、後者の二つは冬場のルートで夏は前者の二つが主に使われている。私はホロホロ山にはこれまで何回も訪れているが、その多くは徳舜瞥山経由のルートで白老側からは数えるほどしかない。
今回は十数年ぶりに白老側から登ってみようと思い立った。夏休み期間中、本州以西では命に危険が及ぶほどの暑さに見舞われているというのに、北国は薄ら寒い冴えないお天気の日が続き、山歩きをする気にもなれなかった。
そんな中、8/27 (火)は久々に晴れマークの予報である。
苫小牧から白老に向かう国道36号線からはホロホロ山や白老三山などがクッキリした姿を見せ、山行への気持ちを高揚させてくれていた。
白老から四季彩街道 (道々86号線) を三階滝方面へ、ホロケシナイ駐車公園から約2Kmにある「ホロホロ山登山口」の標識で左のトドマツ沢林道に入り、5Kmほどで登山口の駐車場である。
沢歩きの道
私が白老側からのルートを歩くのは2006.11以来だから13年ぶり。
当時はヒゲ小屋と呼ばれていたBOXに登山届を入れていた記憶があるけれど、今は大きく立派なステンレス製のBOXに変わっている。
また、以前は沢沿いのルートは通行止めになっていて林道を5合目付近まで歩いて登山道に合流していたのだが、現在は林道が通行止めになって沢沿いのルートを行くようになっていた。歩きだすとすぐに砂防ダム、覗き込むとしばし見とれてしまうほど美しく澄みきった水の流れである。
砂防ダムから落ち込む澄み切った流れ砂防ダムのすぐ上部に「オッカヨの沢」と書かれた看板。若い男の沢という意味らしい。
激しく早い流れの沢相を眺めると、赤ペンキの矢印が岩に描かれている。
「あれ! 沢を渡るんだ」沢歩き気分を味わいながら行けるなんて思ってもいなかった。
地図を見れば、途中の林道出合までは概ね沢沿いを行くコース。これは楽しめそうだと一人ご満悦だ。
「若い男の沢」という流れの早い沢
渡れそうな所が二・三か所、流れが早く水量も多めでしかも岩と岩の間隔が微妙に広く少々躊躇、滑りそうな岩に注意して慎重に渡り始めると以外に滑らない。良かった〜。
濡れている岩も、案外滑らなかった
道は沢沿いにつけられ、小さなアップダウンを繰り返しながら進んでいく。
所々、アイヌ語での看板が取り付けられかつての人たちが道路標識代わりにしていたのだろう時代を想像しながら歩くのも一興である。
ウムレク(夫婦)の松
沢の渡渉はもう一箇所、「ピリカ(乙女)の沢」でこちらは荒々しく激しい「オッカヨの沢」とは逆に優しい穏やかな沢。
ピリカの沢の渡渉地点ピリカの沢を過ぎると、次第に傾斜は急になり梯子やロープ場が出てきて小さな尾根に取り付き、沢から離れていく気配である。
急な斜面を一頑張り、道は林道へと飛び出した。ここまで登山口から45分であった。
林道出合、正面のホロホロ山方向には雲が湧いている広い林道出合で一休み、前回はここまで林道を歩いて来て合流したのだった。
まだワンピッチなのにお腹が空いた、バナナやチーズ・ドライグルーツをお腹に入れる。
晴れていたのにホロホロ山方向は雲が湧いているようで曇っている。
歩くのには曇っている方が歩きやすくて良いけれど、山頂につく頃には晴れてほしいな。
軽食が美味しい・・・
真面目な道
林道出合は4.5合目と表示されている。
あと半分、記憶ではこの道にもアイヌ語の面白い名前の標識がいくつも付けられていたはず。それを楽しみに歩いてみよう。道は樹林帯の中で見通しは全く無く、ほぼ一定の傾斜が続いて単調だ。
見えるのは樹林とホロホロ山の南のある1260m峰の山影だけだ。
単調な道を淡々と単調な登りを救ってくれるのが、「ホクサッペ (後家)の松」、「マチャペ (男やもめ)の松」、などのアイヌ語の看板標識。
勝手な物語が頭の中で創られていく。7合目付近には、見覚えのある「タツニタイ見晴台」の標識。雲と霧で見晴らしはないけれど、過去の思い出が蘇る。
ここにも大きな白樺とミネザクラの群落が存在を主張していた。
タツタニイ見晴台、左に白樺、右にミネザクラの群落こちらの看板は、13年前にもあったものだ。
タツタニイ見晴台の看板標識「涙坂」と表記された道が続く、結構な勾配で真面目な粘土質の道。
雨がちだったせいか、粘土の道が滑る。ストックのキャップを外せば良いのだが登山道を傷つけるのは憚られ、結局は滑りながら悪戦苦闘を繰り返す羽目になる。
「カンナリ(雷)」のダケカンバ
せめぎ合い
黙々と滑りやすい山道と進むと山頂稜線の気配が漂い始めた。
しかも薄暗かった雲の壁が白い霧のカーテンへと変わり、ところどころ青空も見え始めた。
「頑張れ、太陽!」心からの応援だ。山頂稜線へ飛び出すと、そこからはホロホロ山の山頂がようこそと出迎えていてくれた。
ホロホロ山の山頂部植生も急に変わり、樹林帯からハイマツ主体の低木帯へ。粘土質の土から岩場へと地質も変わる。
気分も晴れ晴れ、山頂まで一気登りだ。だが、山頂につくと再び濃い霧に覆われ視界は零。
しばらくは太陽と霧とのせめぎ合いに身を任せるしか手段はない。持ってきたパンや果物などを口に含み、おしゃべりを交わしながらひたすらじっと待つ時間を過ごす。
霧の山頂でハイマツをバックに一枚、何かに使えるかな。
霧のホロホロ山 山頂で
やった〜!
おおよそ20分ほど経って岩上に登り周囲を確認すると、なんと霧が晴れつつあるではないか。
超嬉しい!
カミさんにも声をかけ、何度も見た景観ではあるが霧の中から表れ出た情景を大いに楽しむ。
徳舜瞥山とルスツや尻別岳がなんとか見えている、羊蹄山は雲の中だ。
オロフレ山方面や支笏湖方面は霧の中で白いベールに覆われたままだ。
霧の中から表れ出た、徳舜瞥山とルスツ方面の景観チャンスは逃すまい、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるで、シャッターを押し続ける。
記念の一枚この日の霧はなかなかの根性持ち、消えては湧き、流れては襲来と太陽とのせめぎ合いは一向に決着がつかない。
霧に巻かれる1260m峰約1時間ホロホロ山の山頂に滞在したが霧がスッキリ晴れることはなく、情勢に変化はないと判断し下山することに。
林道へ迂回
下りでは粘土質の滑る道に神経を使い減らすほど使い、気持ち的にとても疲れた。
樹林帯で視界が閉ざされていることも一因なのだろう、林道出合からの沢沿いのコースはより以上に滑ることが懸念されたので、沢コースを避け林道経由で下山することにした。ところが、それは甘い誤った判断であったのだ。
使われなくなった林道は随所で崩壊し、岩が落ちたり道が半分以上削られて無くなっている所も多く、危険度も高かった。
もちろん人が通らなくなった林道には、とてもきれいな苔が生えていたり小鳥のさえずりが響いたりする貴重な場面もあったのだが、危険と隣り合わせの場でもあることも痛感させられた。林道下部にあるトドマツ沢本流では、林道全体が完全に流され姿を消していた。
流れは早く、深いところもあって、とても濡れずには渡れない感じである。
カミさんと二人、比較的安全に渡れそうな場所を探してウロウロ。
腰まで濡れることを覚悟した時、カミさんがかなり上流に渡れそうな場所を見つけてくれ助かった。ホロホロ山の登山口付近は白老町森野という地区、道央では登別のカルルスと並んで豪雨地区として名高いところ。天気予報や大雨のニュースなどで時々耳にする地域である。
そこを流れる沢が一旦大雨となれば、どんな様相を呈するのか?
自らの想像力を存分に働かせて、自らを守るための行動を取ることの大切さを思い知らされた場面でもあった。駐車場に無事戻り、ふと見ると裏手の沢へ降りられるようになっている。
汗にまみれ疲れた体が、冷たい澄んだ沢水で顔を洗い体を拭うと、まさに生き返ったような気分であった。
澄んだ美しい流れ