大雪山の紅葉
9月も下旬になり、北国の山々は秋の気配も濃くなり紅葉の時期を迎えている。
紅葉で頭に浮かぶのは、大雪山。 今年の紅葉はどうなのだろう?
凄いよ!とか素晴らしい!との噂があまり聞こえてこない、9/19にはかなりの雪が降ったそうだからそのダメージも心配だ。あれこれ考えていても仕方ない、まずは出かけてみることに。
行く先は、愛山渓から沼ノ平、当麻乗越。大雪ではちょっとマイナーな地域である。
大雪で紅葉の名所と言えば、「層雲峡から黒岳周辺」や「銀泉台から赤岳・白雲岳」、「姿見の池から旭岳周辺」、「高原温泉から高原沼・緑岳」が著名であるが人出も多い。
それに引き換え、表大雪北辺の山々はそれほどの名所ではない代わりに、人も少なく静かな山が楽しめる。私自身も沼ノ平や当麻乗越を山行目的に歩いたことはなく、愛別岳からの帰路や北鎮岳からお鉢廻りをした時に、当麻乗越を経て愛山渓に戻った際に立ち寄った程度。
紅葉も姿見の池から当麻乗越へ歩いた時の記憶しかないが、決して派手ではないものの落ち着いた印象の景観だったような記憶が。そんな訳で2019年の紅葉を求めての最初の山行は、大雪の沼ノ平と当麻乗越。
ほとんど情報を持ち合わせていないが、それも面白い。
ただ、これまでの経験から足回りは長靴に。何故かドロドロになった記憶がしっかり残っていたし、先日の羅臼湖での敗退も頭に残っていたのだ。
三十三曲がりコース
朝7時、愛山渓温泉をスタート。
沢沿いの緩やかな道を約20分、イズミノ沢に架けられていた鉄製の橋が落ちていて、大きな木を縦に割って繋いだ橋が架けられていた。
落ちた鉄製の橋と架け替えられた木製の橋
この橋がなければ、渡渉に苦戦するに違いない。ありがたいことだ。
橋を渡ると直ぐに道の分岐、昇天・村雨の2滝を通る滝コースと三十三曲がりコース。
私達は滝コースを計画していたのだが、滝コースは2019.9現在道の崩壊のため通行禁止になっていた。
三十三曲がりコースは取り付きからかなりの急登、階段や細かいジグで整備されているものの大きな石混じりの急坂で滑りそう。水たまりも多く、やはり長靴が正解である。
概ね30分きつい登りを耐えれば、傾斜は緩み樹林帯を進むようになる。
愛山渓温泉付近の木々はまだ青々していたが、この付近の木々は色が変わりだしていて黄色や茶褐色が目立ちだす。
黄色はミネカエデやオガラバナが多く綺麗だけれど傷んでいる葉っぱも多い、茶褐色はナナカマドで赤く紅葉しきれないまま枯れたようになっている。ダケカンバや白樺はほんのり変色しだして黄緑になっている。本来ならこの辺りからは永山岳の姿や尾根が見える筈だが、雲に隠れて山容は見えない。
晴れるという予報だったのに・・・、太陽さん頑張ってと願うばかりだ。
そうこうしている間に、沼ノ平と永山岳の分岐である。
沼ノ平
分岐を右に取ると、間もなく視界が開けてきて沼ノ平の入口である。
赤茶に染まった草紅葉の原に「半月ノ沼」の案内表示、のびあがって見れば確かに水面が見える。少し高い所から見ると五ノ沼湖沼群の一つである。
五ノ沼の半月ノ沼と草紅葉
少し奥の沼からは、素晴らしい光景が。
日差しが溢れ水面に空と雲が映り、湖面を彩る草紅葉も急に鮮やかになってきた。
五ノ沼 半月ノ沼
西側の雲は晴れ始めたが、永山岳や当麻岳にかかる雲は居座ったまま。それでも所々に日差しが当たり、その部分は目覚めたかのように鮮やかさを増し始めた。
半月ノ沼にて
一つ奥の沼からは永山岳の尾根が見え始めた、もう少しだ頑張れ!
沼ノ平五ノ沼と永山岳の尾根
当麻乗越方向の山腹が見え始め、緑と黄色・オレンジ・茶褐色が入り混じった紅葉景観が広がりだした。赤色が点在でもしていればさらに見ごたえがあるのだが・・・贅沢な注文かな。
沼ノ平六ノ沼から当麻乗越の紅葉景観
当麻乗越
沼ノ平の五ノ沼、六ノ沼を巡る木道から紅葉景観を楽しみ歩みを進める。
けっして派手な紅葉ではないが、落ち着いた色合いの紅葉である。沼ノ平を過ぎ、当麻乗越へ広い尾根の道を進む。
緩やかなのだが、岩や大きな石それにドロドロ道と水溜りが入り混じった歩きにくい道。
私達は長靴だからドロドロに汚れる心配はないけれど、大きな段差と滑りそうな石には閉口だ。
当麻乗越への途中から沼ノ平を俯瞰する
暫く行くと大きな岩の小ピークへ、やれやれ着いたかと思ったがどうも様子が違う。
良く見ると当麻乗越はさらに上、そこは中間点のC1591mの小ピークなのだった。
再び悪路と段差に悩まされながら当麻乗越へ、以外に苦戦し遠く感じた乗越への登りであった。
当麻乗越から南西方向を見る 上部中央やや左の雲に接しているのが忠別湖
愛山渓温泉から3時間弱、着いた当麻乗越は気温が低く風もあって寒い。
1週間前に降った雪がハイマツの陰に残っていて今シーズン初の雪の感触を味わった。
乗越の大岩の間に僅かな空間があり、ちょうど風が避けられる。
そこを居場所と決め、ザックを下ろしパーカーを着込む。雲は晴れずに旭岳を始めとする大雪の山並みは隠れたままだ。
姿見の池の噴気とロープウエイは確認できたが、期待していた大景観はお預けであった。
当麻乗越から姿見の池方向 左端に姿見の池の噴気 中央左にロープウエイ駅
お腹も空いたとフランスパンに練乳とドライフルーツを塗ったりチーズを乗せて頂く。
トマトやりんごも美味しく頂いて、どうやら人心地。
お腹が満ちて表情も緩む ウラシマツツジの赤は鮮やかさが不足している
当麻乗越付近の紅葉もミネヤナギの黄色とナナカマドの赤くなりきれない茶褐色、ウラシマツツジの赤がアクセントのように散らばっているがそれにも何時もの鮮やかさが欠けている。
当麻乗越
見下ろす沼ノ平、雲が覆うと暗く沈んだ冴えない表情となるが、日差しが出ると黄・橙・緑のコントラストが美しい。
穏やかに佇む大雪山の隠れたお宝と言うのが、適切な表現ではないだろうか。
見下ろす沼ノ平 見えているのは六ノ沼の湖沼群
晴れてきた!
約1時間の滞在を終えて沼の平へ引き返す。
下りといっても、段差の大きい滑りやすい岩と石、加えてドロドロの道だから肉体的にも精神的にもとても疲れる。
道には滑って削られた跡が幾つも残っていて、すれ違う皆さん苦労されている。
私達は長靴だからドロドロ道の真中を歩く、時々足首までズブッと入ってしまうが滑って転ぶより余程良い。悪戦苦闘しながら降りてきた沼の平は、青空も覗き晴れ間が多くなってきて綺麗。
日が当たって輝く黄葉と永山岳
整備された木道の安心感、ホッとすると同時にありがたさを痛感する。
最近話題に登っている入山料、整備された山道や避難所・トイレなどを利用する代償として入山料を支払うのはリーズナブルなことだと思う。
公平な徴収、理解が得られる料金、まっとうな使い方など難しい問題もあろうが、多くの人を巻き込んで大いに議論してほしいものだ。
沼ノ平 六ノ沼にて
当麻岳の山頂部も見えだした、かすかに残る雪の筋が冬間近を感じさせる。
当麻岳から安足間岳への稜線 山腹のダケカンバの黄葉も美しい
沼ノ平の分岐を過ぎ三十三曲がりに入る辺りで、この日初めて永山岳の姿を眺めることが出来た。
紅葉に囲まれ雪を頂いた永山岳、スックとした威厳ある立ち姿であった。
永山岳の山頂部
三十三曲がりコースの途中で、黙々と登山道の補修をしている男性に出会った。
報いることは何も出来ないが、心からの御礼と感謝の意をお伝えした。
見事な黄葉に染められつつ下山する
愛山渓温泉に戻って、靴洗い場で長靴を洗って一休み。靴の洗い場が設置されているなんて温泉宿の方たちの優しさ・親切さが伝わってくるようでありがたい。
今回訪れた沼ノ平と当麻乗越、期待したより控えめな紅葉ではあったが、黄色が美しく落ち着いた雰囲気が漂う静かな良い所だった。
心に染み入る場所でもあり、通過点としてのみならず目的地として訪れる価値はあります。
ただ、足回りだけは十分なご配慮を。間違えると、とっておきの良い所が嫌いな場所に変わっていまうかもしれません。