前岳からのガマ岩(左手前)と夕張岳
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プロローグ
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夕張から国道452号線を桂沢湖方面に走り、シュウパロ湖頭から夕張岳登山口の案内板に従い長い林道を走って夕張岳ヒュッテ手前の登山口へ。
林道沿いと少し手前に駐車スペースがあり、すでに10台ほどの車が停まっていた。登山届けに記入しながら見ると、全国から大勢の方が来られている。
私のすぐ前に出発されたご夫婦も広島から、埼玉からのグループもすでに出発している。
皆さん、わざわざ夕張岳を始め北海道の山々を楽しみに来られているのだ。冷水コースへ入り、うっそうとした暗い林を歩いていくと広島から来られたご夫婦に追いつく。
「遠い所からお出でになられたのですね。お花も見頃でしょうからゆっくり楽しまれてください」と一声掛け、先に行かせてもらう。
オオバミゾホオスキ
冷水の水場までは平らな道と記憶していたが、なんの結構な坂道だ。
記憶なんていい加減で当てにならないものである。
針葉樹林に入り、やっと冷水沢の水場である。
沢沿いの湿ったところには、オオバミゾホオズキが明るい黄色を振りまいている。やはり遠くから来た人たちなのだろう、珍しそうにオオバミゾホオズキの写真を撮り「沢の水を飲んでも大丈夫か」と声だかに話している。その脇を通過させてもらう。
冷水の沢からすぐに前岳の沢(水場)、そして間もなくヒュッテから登ってきている馬ノ背コースと合流する。帰りはこの馬の背コースから戻るつもりである。
しばらくキツい登りを耐えると石原平、シラネアオイの群生地でもある。
確か白花の花が沢山あったように覚えているが、さすがに7月初旬でシラネアオイは終わっている。遅咲きの花がちらほら見える程度だ。
滝ノ沢岳がすっきり凛々しい姿を見せている。
滝ノ沢岳
ここで単独の男性に追いついた。
この方大変な花好きらしく、出会う花々の記録を丁寧に付け、愛でながら歩いている。
お互い、花の写真を撮ったり観察しながら歩くので同じようなペースになり、以後話をしながら相前後して歩くことになった。シラネアオイ
シラネアオイと同様に時期は過ぎているが、ツバメオモトやサンカヨウもちらほら見ることができ目を楽しませてくれる。
サンカヨウ
前岳を北側へぐるりと巻くように登ると、望岳台。
芦別岳がすっきりとした姿で出迎えてくれた。
芦別岳
ここからは気持ちの良い稜線歩き、変化に富んだ夕張岳の姿と花達を楽しみながらゆったり歩く。
カラマツソウ
前岳付近からは夕張岳がどっしりとした屋根型の姿を見せている。
夕張山地の山は地形の関係だろうか、南北からは鋭角的に、東西からは大きく豊かに見える。
夕張岳
前岳から僅かに下って憩沢を渡り一登りすると、前岳湿原。
ここからは、「花の名山・夕張岳」の名に恥じぬお花畑が延々と続く、夢のプロムナードである。
ここから山頂まで、花好きの人はコースタイムの倍位の時間を見込んでおいた方が良い。カメラのレンズをマクロに変え、風景モードから花モードへ変身である。
早速、夕張岳に多く見られるスミレ、「キバナノコマノツメ」が出迎えてくれる。
葉が馬のひずめに似ているからというが、もう少し美しい名前にしてあげたいな・・・。
キバナノコマノツメ
そして沢沿いにはエゾノリュウキンカやミズバショウがまだ咲いていて驚かされる。
盛りなのはチシマキンバイやミヤマダイコンソウ、鮮やかな黄色が一段と美しい。
チシマキンバイ
ミヤマダイコンソウ
ひときわ目立つガマ岩の横を通り、ヒョウタン池を過ぎると湿地帯のお花畑が次々に出てくる。
カメラを仕舞う暇もないほどだ。
カメラを首にぶら下げればすぐに写真を撮れるが、重いしぶつける心配もある。
いちいち仕舞えば取り出すのが面倒だ。
何か良い方法はないものだろうか?
ガマ岩
ムシトリスミレ、シロウマアサツキ、イワイチョウなどが群れ咲いている。
ムシトリスミレ
シロウマアサツキ
イワイチョウ
夕張岳の固有種である「ユウバリコザクラ」の花の時期は5月下旬頃、さすがに見渡してもそれらしき花はない。
水場のあるお花畑で、立ち入り規制のロープの10m以上離れたところに、それらしきピンクの花を数株見つけたが確認はできなかった。
タカネオミナエシ(チシマキンレイカ)
夕張岳の林道は、例年6月下旬からの解放となっている。
従ってユウバリコザクラを堪能する為には、長い林道を歩かねばならない。
車で走っても遠いと感じる林道を歩いて訪れるのは、至難の業だ。
絶滅危惧種の保護という側面があるのだろうが、なんとかしてもらいたいと思うのは私ばかりではあるまいと思うのだが・・・。
ミヤマオダマキ
釣鐘岩と熊が峰の間を超えると急に緑が消え、裸地となる。
ここが蛇紋岩の露出地である吹通し、固有種のユウバリソウをはじめ多くの花が自生している場所だ。
ヨツバシオガマとアズマギク
傍らにはホソバツメクサが可憐な花を咲かせている。
ホソバツメクサ
ユウバリソウはロープで仕切られた場所に保護されながらもかなりの数を見ることができた。
しかし残念ながら花の時期は終わっていて、花柄が見られるのみであった。
ユウバリソウ
いつもは遥かに見える山並みや大景観に歓声を上げながら歩くことが多いのだが、今回ばかりは花にお株を奪われてしまっている。
通り過ぎようとしても引き止められ、あちこちから眺めては写真を撮るため遅々として進まない。
吹通しから山頂を望む
幸い、風も弱く日差しは暖かい。
エゾミヤマクワガタ
裸地にエゾミヤマクワガタやクモマユキノシタが、しがみつくように数本づつ花を咲かせている風情が何ともいじらしい。
クモマユキノシタ
ヨツバシオガマやハクサンイチゲ、アズマギクなども群れを作って咲き乱れている。
花好きでなくても思わずため息が出るような場所である。
ハクサンイチゲ
そしてユキバヒゴダイが風に飛ばされまいと地面にへばりついている。
ユキバヒゴダイ
花達の誘惑を振り切って、ハイマツの斜面をジグを切って山頂を目指す。
ハイマツの花やナナカマドの花もなかなか面白い。
山頂直下には夕張岳神社が祀られており、お参りしてから山頂へと足を運ぶ。
夕張岳神社
夕張岳山頂、何年振りかの再訪である。
やはり芦別岳の姿が眼を引く。
この5月、芦別岳での半月板損傷の事が悪夢のように思い出される。
しっかりリハビリをして、また訪れてみたいものだ。
芦別岳
北東には大雪から十勝へ連なる山並みが静かに佇んでいる。
大雪の山々
南東側には日高山脈が遥か彼方へ連なりを見せている。
幌尻岳の大きさと戸蔦別岳の尖りが目立っている。
日高山脈
久々の夕張岳山頂で腰を据え、冷やしてきたコーヒーとコンビニで買ってきたパンを食べながら、遥か昔の事を思い出していた。
二十数年前、子供達がまだ小さかった頃、家族で夕張岳に来た事がある。
日帰り登山なのに、子供達の着替えやお昼ご飯、水やジュース、おやつなど、すべてを詰め込み一杯に膨らんだ大型ザックを平気で背負った若かりし頃の事である。山頂で、当時は山のお昼と言えば当たり前だったおにぎりだけの昼食をとっているとき、隣に座った老夫婦が食べていたのは保温のため新聞紙に包んできた「焼き芋」、そして次に出てきたのは冷やした「スイカ」であった。
「あら、美味しそう!」とカミさん。
うらやましそうな顔の子供達。確かそのとき以来、私たちの山での食べ物、食事は変わったと思う。
勿論贅沢はできないし、重いものは持って来れないけれど、出来る限り暖かいものは暖かく、冷たいものは冷たく食べられるよう配慮するようになった。
カロリー一点張りだった山での食事が、変化のある美味しいものに少し変わった。夕張岳は私たちにとって、そうゆう意味でも思い出深い山なのだ。
そんな事を景色を見ながらぼんやりと思い出していた。
久しぶりの夕張岳山頂、ゆっくりしたいと思ったが吹通しには人影が何人も。
それに虫が多く、おちおちしていられない。帰りにも花を楽しみつつ戻ろうと下山する事に。
前岳と吹通し(手前の裸地)
登って来る多くの人達とすれ違い、道を譲りつつ、往路で見落とした花はないかと探し、写真を撮りつつ引き返す。
日が高く上がり、暑くなってきた。
この日は北海道でも30度を超える地点が出たほどで、ジリジリとした炎天下、暑さに弱くなっている私には厳しい下山となった。帰路は馬の背コースを選択、ひたすら降りる道は単調でしんどかった。
沢音が聞こえだすと、夕張岳ヒュッテはすぐであった。
夕張岳ヒュッテ
本当に久しぶりで訪れた夕張岳を歩き、忘れかけていた記憶を新たにする事が出来た。
花々のすばらしさは天下一品、心から堪能した。
種類、数の多さ、いずれも素晴らしかった。途中でパトロールの方にも出会った。
これらの方々の努力で夕張岳の素晴らしさが保たれているのだろう。
頭が下がる思いである。有り難うございます。自然の維持・保護は私達にとって大事な問題である。
保護が難しくなれば、いろいろな規制が設けられる。
利用する側からは面倒くさく避けたい事だ。利用する人一人一人が、自然を大切に、細やかな気配りをして自らが自然を守っていく事が大事なのだろう。
そして管理する側も多面的に、利用者の利益をも考えて運用してもらいたいものだと思う。
GPSトラック