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札幌岳
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この5シーズンほど夏山でお世話になって来た山靴(シリオ)、気がつくとソールが減ってトレッドの深さも1〜2mm位しか無く、つま先とかかとはツルツル状態になっている。
どおりで最近、良く滑ると感じていた筈だ。ソールを張り替えようかと思ったが、ゴアテックスに穴でも開いたのか水漏れもかなりある。
そこで清水の舞台から飛び降りたつもりで、新調することにした。一日がかりで3軒の山道具屋さんを廻り、3種類の靴を候補として選んだ。
そして後日、ゆっくり時間をとってその3種類の靴を履き比べた。
その内二つは私でも名を知っている有名メーカーのもの。もうひとつはガルモントと言う名前も知らないメーカーだがスキー靴ではまずまずらしい。履き比べるとどれも良い感じなのだが、ガルモントの靴が私の足にはフィットする。
特にかかと部分が包み込まれるようにすっぽりと納まり、足と靴がなじんで一体となり良い感じである。
店員さんは「これが評判も良く、優れものですよ」とお値段も高い有名メーカーのものを勧めるが、足に合うものが一番とクラシックな感じでお値段も手頃なガルモントの革靴にした。
後日ネットでこの靴を調べてみたが、ガルモントの登山靴でこの手のクラシカルな革靴を探し出すことは出来なかった。
もしかしたら、もう製造されていない型落ちのものなのかも・・・。
左がシリオ、右がガルモント
という訳で、今回の札幌岳はこの山靴の慣らし運転の意味もあったのである。
札幌岳豊滝コースの登山口へは、札幌から定山渓方面に走り豊滝の道路情報館の手前200mの中丿沢橋で左折、何軒かの果物園を過ぎ、豊滝市民の森を過ぎると盤の沢川に架かる小さな橋に出る。
この橋の手前から左に延びる林道に入り500mも走れば、盤の沢林道の標識とゲートがある広場に出る。ここに車を置いて歩き出す。
この林道は3.5kmもあり終点の登山口まで約1時間、一人で歩くには退屈な道。
途中左へ延びる道があるが、あくまで直進だ。
盤の沢林道の終点が実質的な登山口、ただ標識や看板などは何も無い。
右手にテープがあり、登山道が延びている。小さな沢を二本渡ると、後はひたすらしっかりと登っていく。
札幌岳冷水沢コースにも冷水小屋からしばらくは胸突き坂と呼ばれる急坂があるが、それと同じ位まじめな急坂がず〜と続くのである。
しかも樹林帯の中で見晴らしも利かないし、風も通らない。
汗びっしょりになって、ただただ頑張るより仕方が無いのである。辛い単調さをまぎらわしてくれるように、ツバメオモトの青い実がツヤツヤ輝いていた。
ツバメオモトの美しい実
登り始めて1時間弱、ふと見ると谷を挟んだ左手に鋭い岩峰が空を突き破らんばかりにそびえ立っているのを見つけた。
柔らかく優しげな木々に囲まれた山肌から鋭く険しい塔が立ち上っている感じである。
丸い頂から鋭い岩峰が自然が作り上げたものであるが、何とも面白い取り合わせだし不思議なものではある。
登山道は緩むこと無く傾斜を深めていく。
ロープ場が2カ所ほど、標高1000mを過ぎると笹混じりになって思うように進めない。稜線空際が近づいて来たのに元気をもらいひと頑張りすると、空沼岳から札幌岳に通じている縦走路に飛び出した。
平らな所に出て安心し力が抜けるようである。
思わず一休み、札幌市街の町並みが静かに佇んでいた。
縦走路出合いから
縦走路の平坦な道を少し進めば、笹越しに狭薄山や空沼岳、恵庭岳などが姿を見せてくれる。
見晴らしが利き周囲の山々の姿が見えるということが、こんなにも気持ちを和らげてくれるのかとつくづくと思った。
空沼岳(左)から狭薄山(右)への山並み
そして札幌岳の山頂部が初めて姿を見せた。
最後にもう一登り汗をかかせる魂胆だ、標高差100mはあるだろう。
山頂部が僅かに秋色に染まりだしている。
札幌岳山頂
山頂直下は大きな岩混じりの急斜面「よっこらしょ!」と声が出てしまう。歳なのかな〜?
傾斜が緩み少し行けば、見覚えがある大きな岩がゴロゴロしている札幌岳山頂である。
山頂へ
「やれやれ、結構ハードだったな!」ザックを降ろし、岩に腰掛け、まずはコーヒーで乾杯だ。
コンビニのパンもお腹がすいていればなかなかのものだ。
最もこのところ山でのお昼に結構張り込んでいたので、少し寂しい気になるのは仕方が無いか。羊蹄山と尻別岳がくっきりと姿を見せている。
その間に昆布岳が割って入るように佇んでいる。
秋空が広がり、静かなゆったりした景観である。
山頂からの静かな景観 尻別岳(左)と羊蹄山
反対側には大都会札幌の市街地が大きく広がっている。
札幌市を遠望する
南には恵庭岳へと穏やかな山並みが続いている。
空沼岳(左)から恵庭岳(中央)、漁岳(中央右)へと続く山並みと狭薄山(右)
誰も居ない札幌岳山頂で一人ゆっくり寛ぐ、まったりとした時間が流れていく。
羊蹄山が辺りを睥睨するかのようにそびえ立っている。
「近く素晴らしい夕焼けと日の出を楽しみに行くから機嫌良く迎えてね!」
羊蹄山
小1時間を山頂で過ごし下山することに。
下山するにも急斜面だから慎重に気を使いながら降りる。
濡れた土の急坂は滑りそうで嫌な感じだ。
でも滑らない、靴がしっかり地面を掴んでいる。
さすが新品、頼りになる。良く言われるが、山靴は命、最良の状態に維持し、ソールは早めに張り替えるのが正解なのだろう。
車のタイヤもこの冬には履き替えなくては・・・もう4年も経っているし、ふと思った。
安全・安心にはそれなりにお金が掛かるのだ。
分かっちゃいるけど、なかなかなんだよね。
秋色に染まりだした山肌
静かな初秋の札幌岳、豊滝コースは思ったよりハードだったけれど楽しめた。
慣らし運転の山靴も十分な性能を発揮して満足だ。ただシリオの山靴に合わせて作ってもらった中敷が、新しい靴に正しくフィットしていない感じがする。
土踏まずの内側に圧迫感を感じたのである。札幌宮の森にある中敷専門店「ボアネージュ」に立ち寄り、調整してもらうことにした。
ボアネージュでは職人気質のご主人と陽気な奥様が出迎えてくれ、快く話を聞きながら丁寧に中敷の再調整をして下さった。
1時間近く、靴に合わせ足に合わせ、機械で削ったり薄いゴムを貼ったりしながら靴にも足にも丁度良く再調整してもらった。終わって「おいくらですか?」と尋ねると、「結構なんですよ、調整は何回しても無料です」
今時、1時間も仕事をして無料なんて信じられない思いである。それも店側に責任がある訳ではなく、私が勝手に山靴を交換したのにかかわらずなのである。
自分の技術への自信、誇りなのだろうか?作ってもらった時は高いものだなと思ったが、これならば結局安いものになるし大事に扱うようになる。
久しぶりにプロと呼べる人に出会ったように感じ、嬉しくなった。