西穂〜奥穂 縦走

 

西穂高岳(2909m) 中ノ岳(2907m)

2010.9.6(月)〜9.7(火)

 

西穂高
独標から見た西穂高〜奥穂高へ続く岩稜

 

2010.9.6(月) 晴れ曇り
新穂高温泉 1130
西穂高口駅 1155
西穂高山荘 1240〜55
独標 1335〜1445
西穂高山荘 1520
   
2010.9.7(火) 風雨・ガス
西穂高山荘 0350
独標 0450〜55
ピラミット峰 0520
西穂高岳 0605〜15
間岳 0715〜45
西穂高岳 0845〜0900
独標 0945
西穂高山荘 1030
新穂高温泉 1150

最難関ルート?

穂高連峰はご存知のように岩壁、岩稜の山。言わば岩の殿堂である。
最高峰の奥穂高岳から北ヘは槍ヶ岳へ、南西には西穂高岳へ、南東へは前穂高岳へと岩稜が延びている。

その中でも西穂高岳から奥穂高岳への岩の稜線は穂高連峰最難関の難易度の高い縦走路として知られ、道の整備も最小限に止められている。

穂高連峰再訪の旅の第一弾は、この縦走路である。
実を言うと、西穂高岳は訪れているのだがこの縦走路は歩いた事が無い。従って正確には再訪では無いのだが、ぜひ今回の山旅で歩いてみたかった所なのである。
ルート研究はしっかり行い、どこに何があり、要注意箇所についても頭に入っている。後は実際に自分の目で見て判断し行動するだけだ。

天候に恵まれ岩が乾いていれば、歩ける自信がある。
問題は岩が濡れ、滑るときだ。難易度は乾いている時とは段違いに難しくなり、私単独では危険の領域に入ってしまうだろう。
天候判断が成功の可否を分ける重要な要素である。

各種天気予報によると9.7〜9.8が安定しているとの予報、祈るような気持ちで新穂高温泉からロープウエイで西穂高山荘へ入り、翌早朝からの縦走に備えた。

 

小手調べ

新穂高温泉から第1・第2ロープウエイを乗り継ぐと、あっという間に標高2150mの西穂高口駅だ。
新穂高温泉には無料の登山者用駐車場や登山届け所もあり、登山基地としての機能も整備されている。

西穂高口駅周辺は千石園地と呼ばれているらしく遊歩道などが作られている。
ここを通り抜け、千石尾根と言う尾根筋を西穂高山荘へ向かう。
この尾根筋から西穂高岳がオオシラビソなどの針葉樹越しに姿を見せている。

西穂高
千石尾根からの西穂高岳

また南岳から槍ヶ岳の姿も遠望出来、北アルプスへやって来た気分になってくる。
槍ヶ岳が見慣れた姿ではなく少し傾いて見えるのが、かえって新鮮だ。

槍ヶ岳
槍ヶ岳(左)から右へ大喰岳、南岳

鞍部からゴツゴツした石の急坂を一登りすれば、駅から45分で赤い屋根の西穂高山荘である。
小屋で宿泊申し込みをしながら明日の天気を聞くと、問題なく大丈夫との答えに嬉しく気が楽になる。

まだ時間も早いので、独標まで小手調べを兼ね偵察に行く事にする。
山荘の庭からは上高地方向に霞沢岳が堂々たる姿を見せていた。

霞沢岳
西穂高山荘からの霞沢岳

西穂山荘から樹林の中の大岩を縫うように登ると、すぐに森林限界となりハイマツの稜線となる。
多くの人達が三々五々にハイキングを楽しんでいる。
少し行けば「西穂丸山」を書かれた標識。
大きな笠ヶ岳が雲の間から山頂部を見せている。

笠ヶ岳
西穂丸山から笠ヶ岳を望む

ハイマツの中のゴロゴロした石が積み重なった歩きにくい道を登って行くと独標直下の岩場となる。

独標
西穂独標

ペンキマークがこれでもかと付けられた岩を辿れば、2701mの西穂独標だ。
空身で登ってきたので山荘から僅か40分である。
多くの人達が休んでおり、大半はここで引き返すらしい。

私も今日はここまで。
明日歩くルートを眺めるが、雲が掛かっていて西穂高までも見る事は出来ない。
三角錐のピラミット・ピークが大きく立派に見えている。
しばらく休みながら様子を見る事にした。

ピラミット
ピラミット・ピーク

確かに独標を過ぎると岩場の連続となり、点々とペンキマークがコースを指示しているようだ。
振り返ると焼岳が特異な姿を見せている。

焼岳
焼岳

雲の流れは結構早く、奥穂高〜前穂高の吊り尾根と前穂高から明神岳への東南稜が見え始めた。

吊り尾根
奥穂高から吊り尾根を経て前穂高そして東南稜

雲の切れ間からやっと西穂高岳が見えだした。
その奥に赤茶けた間ノ岳も姿を表した。

西穂高
左から3番目のピークが西穂高岳、次の赤茶けたピークが間ノ岳

「ウ〜ン!」結構な距離があるな〜。
雲で見えないが、間ノ岳の向こうの斜面はジャンダルムへの登りなのだろう。

明日への期待を含めて、じっとアップダウンの厳しい稜線に目を走らせるのだった。
振り返ると、上高地と大正沼などがひっそり佇んでいる。

上高地
上高地(左下)を挟んで霞沢岳(左)と焼岳(右)

 

情報収集

西穂高山荘へ戻り部屋に入ると、今日の同宿は3名だ。
その中に今日、奥穂高から逆ルートで来た桐生市の人がおり、ルートの様子をお聞きする。
話の内容は概ね予想していた通りであり、安心する。

それによると、奥穂高側からだと登りは急であるが下りは概して緩やか、西穂高側からだと下りが急になるのでより難しく要注意。
ルート表示が少ない所があり、ルートを外さないよう注意が必要。ルートを外すと途端に難しくなる、逆に難しくなったらルートが正しいかC'Kする方が良い。
鎖場は然程難しくない、それより何にも無いトラバースで怖い所が多い。
等等であり、とても参考になった。

同室になった、さいたま市のKNさんも明日、奥穂高まで行くと言うので、緩やかな強制力の無いパーティとして一緒に行く事にした。
力が一緒位だと良いのだが・・・。

営業小屋の無い北海道に住む私には西穂高山荘はホテルみたいなもの。
泊まっている方の中には不平を口にする人も居たが、私にとっては極楽。
お金を払えばこんな快適にそして楽に過ごせるなんて信じられない位である。
明日の成功を願いつつ、早々とお布団に入った。

 

アレッ?

夜中目覚めると風の音がしている。
頑丈な山荘が時折悲鳴を上げている。
午前3時半に起床、静かに起きだし小屋の玄関でパンを口にし準備を整える。

外は風が強く、一面のガスだ。視界は50〜100mほどであろうか。
アレッ?天気予報と違うじゃない? そんな感じであるが取り止めるほどの天気ではない。
西穂高岳でGO,NO,GOの最終決心をする事にして、KNさんとヘットランプを点け出発する。

昨日偵察した道を進んで行く。
KNさんが遅れだす「私は遅いですから先に行って下さい」と言うが、一応パーティを組んだ以上そんな事は出来ない。
彼のペースに合わせ、独標を目指す。
ガスは飛騨側から吹き上がって来る、風は強いが支障になるほどではない。
ヘッドランプの光りがガスの中で白い束になって延びている。

独標まで1時間、まずまずのペースだろう。
KNさんもこのペースなら大丈夫と言う、ペース配分も分かった、後はガスの晴れるのを期待するばかりである。

 

濡れだす!

独標で雨着を着込み、先に進む。
ここから西穂高岳までの間に13のピークを乗り越えて行く。

ピラミット・ピークへの登りに掛かる。
ハイマツの壁が無くなり飛騨側から風とともにガスが吹き上がって体にまともに当たる。
コースを示すペンキマークが点々とついて迷う心配は無い。
独標から25分でピラミット、次々に表れるピークには数字が記されている。

ピラミットを過ぎると明るくなってきてランプを外す。
一瞬、ガスが晴れ青空と梓川の流れが目に入り、天候回復の期待が高まるがすぐに再びガスの中。

ピラミット
こんな感じの中を登って行く

ガスが濃く、次第に岩が濡れ始めた。
最初は飛騨側のみであったが、信州側も濡れ始め嫌な感じになってくる。
眼鏡にガスの細かい水滴が付き曇ってしまう、指で曇りを拭うがすぐまた曇る。

止めた方が良いかな? そんな気持ちが頭の中に浮かびだす。
KNさんは何も言わず、少し離れてついてくる。

 

西穂高岳

西穂高岳へは独標から1時間15分、ガイドブックでは2時間だから、まずまずのペースである。
ここで進むべきか中止すべきか、KNさんと相談。
結論が出ない、二人とも行きたいのだ。

西穂高岳
標識の他は何も見えない西穂高岳山頂

こんな事を理由にしてはいけないのだが、私にとっては二度と来られないだろう山なのだ。
チャンスは二度と無い、多少のリスクは負う覚悟がある。

結局結論を出せず、もう少し進む事にした。

 

滑るスラブ

西穂高岳からいよいよ縦走の核心部へ入って行く。
緩やかに下って次のピークを越えて、岩壁を急下降し、狭いバンドのトラバース、結構露出感のある鎖場の下りなどが連続し、緊張感が高まってくる。

ロープも鎖も無い何でもない所、僅かに下り傾斜の一枚岩のスラブ濡れていて嫌らしそうな雰囲気。
しっかり左足をフラットに置いて、岩角をつかみ重心を掛けようとしたらツルッと滑る。
下は無論切れ落ちている。
しっかり岩角を掴んでいたので何事も無かったが、ゾッとする。

間ノ岳へはザクザクの岩屑を登って行くが、コースマークが少なく、少しルートを外すと、途端に浮き石が多くなる。
ピーク直下はスラブ上の一枚岩、ここも緊張を強いられ乗り越える。

赤茶色の岩に「間ノ岳」と矢印が書かれている。

ガスは濃くなる一方で晴れる様子はいささかも無い。

間ノ岳
間ノ岳から先を見る

 

決心

この先は、天狗のコル、ジャンダルム、ロバの耳、馬の背と好条件でも緊張を強いられる本当の核心部が連続する。

KNさんと進退について相談、忌憚の無い意見を求める。
行きたい気持ち半分、命の危険を感じる気持ち半分。
彼も気持ちを決められない。

結論を出すべきだと思った。気持ちの整理が出来ず、このままズルズル行っては危ない。
冷静に考えるべきだ。
いつもの私だったら、潔く諦めている状況だ。
それが二度と無いチャンスに直面して、諦められないでいる。
今回を逃したら二度とチャンスは無いだろう、だから何とかこの手応えのある稜線を征服したい。そんな気持ちが揺れている。
自分の信念、正直な気持ちに負けること自体、負けではないか。そう思った。

「KNさん、行きたいのは山々だけど命の掛ける程の価値はない。残念だけど戻りましょう。」
「わかりました。私もその言葉を言おう言おうと思いつつ、言い出せなかった。」

気持ちの整理をすべく、二人で握手して引き返す。
もう後ろは振り向かない。
見据える岩場はガスだけではない滲みで、一層かすんでいた。

 

後日談

下山後わかった事であるが、この悪天は台風9号の前兆であった。
急に進路を変えスピードを上げた台風が何十年振りに北陸に上陸してきたのだった。
数日前の天気予報ではそこまで計算出来なかったようで、私の願いも台風とともに吹き飛ばされてしまったのだった。

夢を打ち壊されて残念至極だが、これも今回の北アルプス再訪の旅の良い思い出となることを信じ、次の行動に移ろう。

 

 

北アルプス再訪の山旅へ 北穂高〜奥穂高〜前穂高縦走へ

 

 

 

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