ニペソツ山 (2013m)

タウシュベツ橋梁

 

東大雪   2014.7.30(水)   晴れ・煙霧

 


 

 

2014.7.30(水)
十六の沢登山口 0455
C1630m大岩 0635
前天狗 0800
天狗岳 0830
ニペソツ山頂 0945〜1030
前天狗 1200
登山口 1405

ニペソツ山

東大雪の最高峰であると同時に何処から見ても一目で分かる天を突く孤高の鋭鋒、なだらかな表大雪とは対照的な急峻な岩峰は何とも魅力的である。

その見事な山容に魅せられ、何時かはと目標にする登山者や何度も訪れる登山者も多い。

かく言う私もニペソツ山に魅せられた者の一人、訪れる度に素晴らしい思い出を心に刻んでいる。
そんな素敵な思いを共有したく、未登だったカミさんと一緒に訪れてみた。

 

 

覚悟!

ニペソツ山は十六の沢登山口から山頂まで片道約7Km、急峻な登りや3度の登り返しなどがあり、かなりハードな山行である。

カミさんは昨年、芦別岳の旧道〜新道を13時間かけて歩き通した。
だがそれは当初から計画していた山行ではなく、俵真布林道の鍵を借りられなかった代替えとして急遽訪れた山行で、ハードな厳しい山であることを本人は知らなかったのだ。
つまり辛い思いはしたけれど、成り行きで登った山。

今回はハードであることを十分承知しての山行。
それだけカミさんにとって、ニペソツ山はぜひ登ってみたい覚悟の山だったのだ。

前夜、糠平のひがし大雪自然ガイドセンターで車中泊。
満天の星空に晴天を夢見てまどろみ、早朝登山口である十六の沢へ向かう。
登山口には5台ほどの車が停まっていて、出発準備をしている人の姿があった。

 

登山口遭難?

縦走装備の男性2名が出発する。
早朝から登るのは大概日帰り登山者なのだが、縦走装備の人はどんな行動予定なのだろうか?

私達も準備を整え、沢を丸木橋で渡る。
すると先行した男性二人連れが沢の上流に向かって崖下を苦労しながら歩いている。
はて、沢から行くルートって? と思いつつ眺めていると、男性の一人が私達に気づいて「道はこれで良いの〜?」と大声。

いや〜、たまげた!
登山口で遭難なんて聞いたこと無いよ。

 

黙々登りは辛い!

ニペソツ山は大好きな山だが、取り付きから標高1600m付近までの樹林帯の登りは辛いだけで面白みも何もなく正直嫌いだ。

見通しの効かない薄暗いエゾマツの森、ぬかるみ滑る急な道を黙々と登るだけ。
咲いているギンリョウソウも覇気がない。

ギンリョウソウ
ギンリョウソウ

 

ゴゼンタチバナも痛み加減のものが多く、元気をもらえるのは咲き出したウメバチソウだけだ。


ウメバチソウ

 

見通しのない樹林帯を登ること2時間近く、C1630mにある大岩まで登ってきた。
「注意!」の標識が立っているけれど、カミさん余裕で上側を通過する。

大岩を過ぎると間もなく天狗のコル、大型テントが一張立っていた。
ちなみにこの時期のニペソツ山には残雪は全く無いと言ってよく、深い谷の一部に僅かに見られる程度。
表大雪の山々にはかなりの雪が残っているのと対照的だ。

 

爽快!

天狗のコル付近から針葉樹林は疎らになりハイマツとダケカンバに変わり、日差しも届くようになった。
チングルマやツガザクラの花は終わり、日差しにチングルマの穂が光っている。

チングルマ
日差しに気持ちよさそうに光るチングルマの穂

 

しばらくミヤマハンノキの林を行くと砂礫地が広がりだし展望が開ける。
待ちに待った大展望の始まりだ。

石狩岳と音更山が大きい。


石狩岳と音更山が大きく迫力満点に見える

 

時間は0720、澄んだ大気に山々が凛々しく輝いている。
南東には西クマネシリ岳とピリベツ岳の通称オッパイ山が逆光に煙っている。


オッパイ山

 

石狩岳の北から北西にかけて表大雪の山々が独特の雪模様を見せ並んでいる。
何時見ても心がなごむ素晴らしい大展望だ。

ただ北西方向の視程が煙霧(ヘイズ)で煙っているのが気にかかる。

表大雪
石狩岳の左には白雲岳〜旭岳、忠別岳〜トムラウシへの山並みがズラリと並ぶ

 

アルビノ(白花変種)の花

この砂礫地から前天狗・天狗岳へと続く稜線は展望もさることながら花が楽しめる。
季節季節に咲き代わりながら次々に咲き乱れる花達。
花好きには堪らない稜線歩きなのだ。

その一部、特にアルビノ種についてご紹介したい。
アルビノの花としてはエゾエンゴサク、オオサクラソウ、エゾコザクラ、コマクサ、カタクリ、シラネアオイなどが知られている。いずれも珍しくなかなか見られない。

今回ニペソツ山を歩いて見かけたアルビノはイワギキョウとイワブクロ。
どちらも表大雪などで何度か見かけた記憶があるが、どちらもあまり見かけない花だと思う。

まずはイワギキョウ。
沢山咲いていた普通のイワギキョウ、私の好きな花の一つだ。

イワギキョウ
イワギキョウ

 

そしてアルビノ種のイワギキョウ

アルビノのイワギキョウ
アルビノ種のイワギキョウ

 

色が白いだけなのだが、受ける印象は大分異なる。
より清楚な感じになるのかな?

イワギキョウ
アルビノ種のイワギキョウ

 

そしてアルビノ種のイワブクロ、昨年表大雪で見かけたが今年は見ることが出来ずに残念に思っていたらニペソツ山で見ることが出来た。


アルビノ種のイワブクロとその蕾、そして普通のイワブクロ

 

アルビノ種は白の色変わりが珍しく美しいのだが、本来の色が美しい花もたくさんある。
ミヤマリンドウが美しい青の花をたくさん咲かせていた。
私の好きな花の一つ、これは白より鮮やかな青が良い。

ミヤマリンドウ
ミヤマリンドウ

 

ウスユキトウヒレンも青紫の旬の花を沢山咲かせていた。


ウスユキトウヒレン

 

ハイマツの根元に隠れるようにリンネソウが可憐な花を付けてひっそり咲いていた。
目立たない小さな花、だけど良く見ると以外に派手で驚く。

リンネソウ
リンネソウ

 

勇姿!

ニペソツ山の全容を間近で眺められるのは前天狗からが有名である。
前天狗を登りつめると、突如正面にニペソツ山の勇姿が現れるからである。
私自身、前天狗からのニペソツ山のスックとした姿は忘れられない。

カミさんにも味わってもらおうと前天狗直前からウメバチソウやウサギギクなどの花に視線を集中させておいて、「正面を見てごらん」

「すっご〜い!」の声を期待したのに、返ってきたのは 「まだあんなに遠いの〜!」だった。

という訳で、カミさんが感動の歓声を上げたのは天狗岳からのニペソツ山の勇姿だった。


天狗岳から見たニペソツ山

 

ニペソツ山へは天狗岳から稜線を一旦コルまで下り、急激な登りに耐えなければならない。
そのコルへ下る途中に6月初め頃ツクモグサが咲く所がある。
今はツクモグサの代わりにコマクサが点々と咲いている。

登山道の真ん中にコマクサが石に囲まれ守られて咲いていた。
優しい気遣いが嬉しい。

コマクサ
守られて咲くコマクサ

 

そしてコルから見るニペソツ山も素晴らしい迫力を見せている。
登高意欲が勝るのか? 急斜面に打ちのめされるのか? 勝負の分かれ目である。


コルから見るニペソツ山

 

勝負!

「さあ、ギアを切り替えて勝負だ!」

ドライフルーツで燃料を補給して一歩を踏み出す。
谷間にはシナノキンバイが一面を黄色に染め、トリカブトが紫のアクセントを作っている。

花の谷間
花に埋まる谷

 

急斜面をゆっくり一定のペースで休まず登っていく、まるでカタツムリだ。
見上げるニペソツ山の東壁が切れ落ちすくむ思いだ。

東壁
見上げるニペソツ山東壁

 

いつの間にか、先程居た天狗岳より高い所を歩いている。
後100m位か? 思ったより短時間で登り切れそうだ。


天狗岳
景色に元気をもらいつつ・・・

 

拍手!

きつかった斜度が幾分緩み、方向を西へ次いで巻くように南に変えていく。
すぐ後を歩いていたカミさん、ズルズルと距離が開き始めた。
待つ、追いつく、歩き出す、離れる、待つ・・・。

山頂直下
緩やかになった道をもう少し進めば山頂だ

 

南に向きを変えると、ニペソツ山の山頂が視界に入ってくる。

先頭を譲る。初登頂のお祝いだ。

「あ〜、やっと来れたわ!」
「おめでとう!」

やった〜
やった〜! 山頂標識も見えた。

 

山頂が小さく感じられる。
以前より狭くなったような・・・。
確か山頂から覗き込むと東壁の真下まで見えたと思っていたが、小さなテラス状の棚がある。
崩れたのだろうか?

標識から少し離れた所にザックを下ろし、まずは祝杯ならぬゼリーで乾杯だ。

心配していた煙霧の広がりが陽射しの強まりとともに早まり、石狩岳も霞んでよく見えなくなった。
表大雪の山々は肉眼で見るのもやっとの感じ。
ま、朝に時間帯に展望は楽しめたので良しとするか。

南のウペペサンケ山は比較的良く見えている。


ウペペサンケ山

 

天狗岳も煙霧がかかりボヤ〜としている。
煙霧の境界がハッキリ判る濃さで、高度2200m〜2500m位に逆転層があるようだ。

天狗岳
天狗岳、前天狗方向  煙霧の濃さが良く判る

 

歩き出して4時間50分、爺婆にしては上出来の部類だろう。
カミさんは相当きつかったようだが、変化に富んだニペソツ山が気に入り好きになった様子。
嬉しそうに思い浮かんだ短歌を手帳に書き留めている。

私はその間、山頂の花を見て回る。
狭い山頂部だが丹念に見て回ると結構の種類の花が咲いている。
名前に自信のない花も多い、カミさんと一緒に花の名前の同定だ。

まずはタンポポ、多分フタマタタンポポではないかと思われる花。
七つ沼で見た以来かもしれない。


フタマタタンポポ

 

ヨツバシオガマにしては小さいなと思ったタカネシオガマも何株か纏まって咲いている。
チョット、ピントが甘かった。


タカネシオガマ

 

チシマゲンゲの花は終わりかけていた。


終わりかけていたチシマゲンゲ

 

エゾルリソウはまだまだ見頃、綺麗な空色が美しく可愛い。


エゾルリソウ

 

濃いピンクの小さな花が一群あった。
イブキジャコウソウだと思う。
でも香りは感じなかったな〜。


イブキジャコウソウ

 

苦手なセリ科の花があった。
高さ30cm位、茎が赤紫、花に薄いピンク色が掛かっている。
ホソバトウキかな〜?

ホソバトウキ
ホソバトウキ?

 

タカネナデシコは終わりの時期か、萎れた花が多かった。


タカネナデシコ

 

イワツメクサも結構な数咲いていた。


イワツメクサ

 

続々!

私達が山頂に立って約30分も経っただろうか、ポツリポツリと登山者がやってきた。
皆さんかなり疲れた様子だが、一様に嬉しそうな良い笑顔。
ニペソツ山山頂に立てた喜びが表れている。
でも「八剣山みたいな山だな〜」との感想はニペソツ山がチョッピリ可哀想。

中年の方一人を除いて、皆さん若い方ばかり。
引き続き続々と登ってきているらしい。
狭い山頂、譲り合い。
山頂標識にタッチして、小1時間滞在した私達から降り始める。

下山する急斜面でも若い学生さんらしき人、数人とすれ違う。
それも全員単独で、うら若いお嬢さんも元気一杯だ。
若い人たちの登山人気はどうやら本物らしい。

下ってコル付近から見上げる天狗岳、これが以外に格好良い。
ただ、登り返しは心が萎える。

天狗岳
コルから見上げる天狗岳

 

見納め!

天狗岳から気持ちの良い稜線を再び花を楽しみつつ前天狗まで戻る。
前天狗でニペソツ山とはお別れだ。
サヨナラを言いつつ見入るニペソツ山は勇壮な姿だが、煙霧に覆われ薄墨を掃いたみたい。
一呼吸見入って、後はもう振り返らない。
心の写真帳にしっかりと刻み込んでいるから・・・。

多分もう訪れることは出来ないだろう、そんな思いが心をよぎる。


前天狗からのニペソツ山

 

登山口まで、まだ4Kmちかくある。
煙霧で煙っているが、日差しは強く汗をかき喉も渇く。
二人で5リットル持ってきたので大丈夫と思いつつ、節約ムードで降りていく。

大岩を乗り越えてから、樹林帯の下りが長かった。
沢で顔を洗うことを楽しみに精一杯頑張りながら下っていく。
いい加減嫌になってボヤキが出る頃、やっと沢音が聞こえ始めた。

総計 9時間10分のニペソツ山山行は無事終わりを告げたのであった。

 

 

 

 

 

 


 

 

タウシュベツ橋梁

 

ニペソツ山下山後、折角の機会だからとそのまま糠平湖にあるタウシュベツ橋梁を見に行った。

湖の水位によっては水没していることもあるというが今年は干ばつ気味なのかダム湖の水位が低く、橋は露出して地面には草が生えているような状態だった。

崩壊も間近と噂されるとおり、コンクリートは剥がれ落ち見るからに危うそうな状態。
それなのに、なにか風情を感じさせる橋の佇まい。
古き良き時代の遺産、訪れてみて良かった。


タウシュベツ橋梁

 

タウシュベツ橋梁は昭和14年に架けられた橋で、資材不足からコンクリート骨材は全て地元調達で作られたそうだ。
確かに間近で見ると大きさの揃った小石が沢山練りこまれている。

11連の美しいアーチ橋、厳しい天賞希少に耐えいつまで立ち続けられるのか?
残しておきたい風景遺産ではある。


タウシュベツ橋梁

 

糠平温泉の傍に糠平駅跡がある。
そこから旧軌道跡を少し歩くと糠平第一橋梁と言うコンクリート橋跡があった。
この橋もアーチ橋でとても美しい。
アーチ橋は強度も強いそうだが当時の流行りだったのかもしれない。


糠平第一橋梁跡

 

ハードだったニペソツ山登山の疲れもタウシュベツ橋梁群のロマン溢れる風情に癒された気分。

心穏やかな気分に浸りながら、上士幌へ戻り、ふれあいプラザ温泉にのんびり入浴して汗を流した。。

 

 

オジロワシ歌壇

 

・そそり立つニペソツ青陵きわだちて
      二度(ふたたび)はなしかしこみて見上ぐ

・崩れゆくタウシュベツ川橋梁の
       アーチ淋しき夢のあとさき

 

 

 

 

 


 

 

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