投入堂
三仏寺 投げ入れ堂
このお堂をTVで見た時、なんと不思議な光景だろう。一体どうなっているのか? と思った。
「偉い行者さんが岩窟に投げ入れて造られた」との伝説を聞いて、さもありなんと思った。
見れば見るほど摩訶不思議なお堂。しかも国宝だという。いつかチャンスがあればこの目で見てみたいと思っていたので、今回の旅に当たってカミさんに話してみると二つ返事で「私も見てみたい」
参拝するには、標高差200mのかなり険しい狭い尾根を登らねばならないと聞いてはなおさらだ。計画段階から寺院参拝は頭から消え去り、登山モード一色なのである。だが、これでは余りにも不遜。
本当の名前が三徳山三仏寺の投げ入れ堂というのも、今回調べて初めて知った。
さらに調べてみると、日本でも代表的な懸造り建築なのだそうだ。
懸造りとも懸崖造り、崖造りとも言い、世界ではあまり例を見ない日本独特の建築様式。
名を知られている建物として京都の清水寺、上野寛永寺、大津の石山寺あたりを思い起こせば、建築様式の概要は理解できるのではと思う。三仏寺の投げ入れ堂は懸け造りの規模・大きさはさしたること無いものの、周囲が断崖絶壁で近づく道すら無い垂直な崖に作られている点では、唯一無二のものかも知れない。
建築されたのは今から1300年前の西暦700年頃、役行者が建物を小さくして岩窟に投げ入れたとされていて、「世界一危険な国宝」とも言われている。
いざ 出陣!
道の駅「神話の里 白うさぎ」で目覚めると、お天気は文句無しの晴れ!
急ぐことは無いと言いつつ、二人ともてきぱきと準備。
もちろん登山モード、標高差は200mだがスパッツを履き私は痛めた膝にサポーターも付ける。道の駅から三朝温泉方面へ向かい、三朝温泉手前から三徳山へ。
1時間と少しで三仏寺脇の駐車場に着いた、停まっている車は1台だけだ。お寺だから何時からでも参拝できるのだろうと思っていたが、午前8時の開門だという。
それまでの小1時間、先着していた岐阜の登山好き男女3人パーティと山の話で盛り上がる。
こんな所で山好きが集まる偶然が面白い。
彼等も投げ入れ堂にお参りするというより、登山がてらという方が正しいようだ。8時の開門とともに本堂へ、ここで服装や靴のC'Kを受け、入山心得を聞き、拝観料と入山料合わせて600円を支払い、輪袈裟を肩から掛けて、やっと入山できるのだ。
もちろん本堂でのお参りも忘れてはならない。
三仏寺本堂投げ入れ堂までの案内看板も設置されていた。
投げ入れ堂までの道案内看板案内看板を見ながら、鎖場、急斜面、馬の背などの難所、主要な建物などを頭に叩き込む。
普通に歩いて概ね1時間ほどらしい。朝一番に歩き出すのは私達と岐阜の3人パーティ、広島から4度目だと言うご夫婦の3組だ。
登山モード
投げ入れ堂までの道はあまり整備されていない。多分意識的にそうしているのだろう、修験道の道と同様な考え方なのだと思う。
尾根は明瞭で一本道、木の根や岩を頼りに登っていく。(木の根や岩は意外にしっかりしている)
「結構ハードだね〜、暑くなってきたよ」会話を交わしつつ汗ばむ頃、鎖場が現れた。
ここで上着を脱いで体温調整、カミさんが低血糖気味だというので甘いものを口に少し休憩、岐阜組に先頭を譲り先に行ってもらう。
鎖場
鎖場は長さ20mぐらい、鎖が無くても問題ない足場があるけれど便利に利用させてもらう。
カミさんの低血糖は解消し喘息の気配も無く、快調な様子。
鎖場を登りきる
鎖場の上には文殊堂が建っていて回廊が付けられている、様子を見に行ったが霞んでいて遠望は利かなかった。
晴れすぎて遠くが白っぽく霞んでしまっている、残念。再びかなりの傾斜を登っていくと小さな鐘楼があり、岐阜組が鐘をつくべく用意している。
せっかくだから私たちも鐘をつくことに。「膝のリハビリを終え、今年から山歩きを再開します。どうぞお見守りください」と心を込めて鐘を撞く。
心を込めて鐘を打つ
鐘楼付近からゴロゴロした岩が多くなり、すぐに馬の背と牛の背と呼ばれる細い岩場歩きとなる、幅は1m以上あり緊張するほどでは無いが落ちれば血豆ぐらいは覚悟しなければならない。
馬の背
すぐ脇に色の濃い藤が咲いていた、ちょうどこの辺りでは山の藤が花盛りで綺麗。
北国では藤棚に咲く花を見るくらいなので、珍しく感じる。
藤の花 谷に落ちないよう注意しながら撮影カミさんが馬の背の谷に花を見つけ、何だったっけと考え込んでいる。
「上の空で足を滑らすなよ」と注意喚起。馬の背を過ぎれば、登りはほとんど終わり。
広くなった尾根をトラバース気味に縫っていくと、立派な観音堂。
これも懸け造りで道は建物の裏側を通っていく。
観音堂 道はこの裏側を通る
観音堂から巨大な岩壁を一つ回り込むと、目の前の絶壁に宙吊りの建物が。
投げ入れ堂である。
やっぱり不思議
断崖の僅かな窪みに建つ、投げ入れ堂
投げ入れ堂が目に飛び込んでくる。
「お〜!」こんな言葉しか出てこない。摩訶不思議である、均整がとれて美しい建物だから余計そう思うのだろう。
岐阜の皆さんも感嘆の声を上げながら写真やビデオ撮影に忙しい。
投げ入れ堂
登山道はお堂の30mほど手前で封鎖されている。
岩場で狭く撮影場所も限られるので同じような写真になってしまうが、この際何枚かお目にかけよう。
念願のお堂を見られ、笑顔がはじける
岐阜の皆さんと場所を譲り合いながら、じっくり眺めたり撮影したり。
構造も明快で、ゴテゴテした装飾もない。
単純でスッキリした姿だから美しく清らかに見えるのだ。シンプル・イズ・ベストなのである。よく見ると建物へ続く道が見て取れる、空身ならなんとか行けるだろうが建築資材を担いでなどとても無理な気がする。
専門家には専門家なりの工夫や知恵があるのだろうが、今から1300年も昔の人達の知恵と努力に敬服だ。
少し角度を変えて
30分近くの時間が経ちそろそろ下山しようとする頃、広島のご夫婦が到着。
さすが4度目で私達のような感激や喜びは表さず、「また来ましたよ」という感じでお参りされている。少し話をさせていただくと、奥さんが植物やお花に詳しい様子。
花好きのカミさん、北国には無い花や呼び方の違いなどを尋ねるなど、話が弾んでいる。
馬の背で見つけた花はタバコ草と言うらしい、呼び名もかなり異なっているらしくカミさんはその由来などを聞いて頷いている。こういう思わぬ交流って良いものだし、とても楽しい。
アップ見ると 床板などが少々痛み加減
下山も慎重
楽しい時間を過ごせたが、思わぬ長居。
広島のご夫妻と挨拶を交わし、下山に移る。岩場が多く足場も悪い、旅行の途中で怪我などしたくない。
意識して、より慎重に下山する。
鎖場を過ぎた辺りから、登ってくる人達とすれ違うようになった。
十組ぐらい、その都度登ってくるのを待ち道を譲りながら励ましの言葉をかける。
かなり疲れている人もいて、早い時間帯に登ったのは正解だったと心の中で安堵。本堂まで戻り下山の報告、投げ入れ堂での30分強を入れて往復1時間40分であった。
本堂の近くに可愛らしいお地蔵様が一列に並んでおられた、無事下山のお礼を申し上げ念願だった三徳山三仏寺投げ入れ堂の参拝を終えた。
可愛らしいお地蔵様たち
蒜山高原
明日は大山登山の予定なので、今日は夕方までに大山寺近辺まで行ければ良い。
まだ午前10時、時間はたっぷりある。そこで蒜山高原で大山の雄姿を眺めながらのんびりしていこうと決めた。
温泉客が散策している三朝温泉を通り抜け、鳥取県の南部をゆったりドライブ。
道路脇には今盛りの桐と藤の薄紫の花が咲き乱れて美しい。
花いっぱいの藤、新緑も美しい丘や原で何人もの人たちが何か探し物をしている。
尋ねてみると、ワラビを採っているのだった。美味しそう!
もっともワラビを食べるのは人間だけ、動物たちは食べないのでワラビとトリカブトだけが繁殖して困るという話をよく聞く。蒜山高原は蒜山三山のゆったりをした姿を眺められる広々した気持ち良い高原。
広い高原に様々な施設が点在している、私達はよく分からないので道の駅に立ち寄りのんびりした時間を過ごす。
時間もちょうどお昼、レストランに行くとハンバーグやスパゲッティなどお馴染みのメニューの他に鯖寿司やおこわなどもある。
私は若狭で美味しかった鯖寿司を懲りずに注文、海から少し離れているせいか味はイマイチだった。花壇を見たり少々お昼寝を楽しんだりしてから大山寺方面に向かう。
選択した道は一番大山に近寄っている道路、道幅は狭くアップダウンと急カーブの連続だが数ヶ所設けてある展望台からの大山は素晴らしい。
初めて見る大山南壁の迫力ある雄姿である。
大山が大きくなってきた
午後になり大山の北側には雲が湧き上がっている、きっとこの傾向は続くだろうから明日はなるべく早立ちで登った方が良いだろう。
ここにきて大山という山は東西に長い山頂稜線を持った山なのだと再認識、南北から見れば台形に東西から見れば円錐状に見えるのだと理解できた。
さらに近寄った展望台から
近くから眺める大山南壁はさすが百名山、恐ろしい位の迫力で聳え立っている。
素晴らしい山容だが、大山南壁は崩落が激しい感じ。
沢から登るルートがあると聞いているが、リスクが高いのではないかな?
そして北側も多分同様なのだろう、二本ある登山道のうちユートピアというルートの方が面白そうだけど山頂部の道が閉鎖されているそうだ。
滅多にというか、もう来れない確率の方が高いのだから山頂にたてる夏道ルートを選定すべきか、未だに決めかねている。悩むな〜。
展望とドライブを楽しみつつ大山の麓には午後3時に着いた。
時間は早いが、豪円湯院という所で入浴と休憩、そして夕食までのんびり過ごす。その間にカメラのバッテリーを充電させてもらう。
夕食は名物だという豪円うどんセット、おこわのお弁当があったので明日用に買い求める。明日のルートは山頂に立てる夏道ルートに決め登山口に近い駐車場で車中泊、明日は土曜日とあって夜になると車が続々到着。
早出しないと混み合うかも、焦らず急がず膝をかばいながら楽しもう。
そんなことを考えているうち眠りに落ちた。
オジロワシ花壇
・浮くように岩窟に建つ投げ入れ堂
掌を合わせれば霊気に触るる・やわらかに緑かさなる蒜山の
四方より響くうぐいすの声