月山に登る信者の行列 ( 仏生池小屋 )
プロローグ
月山、前回の東北の山旅の時には大雨で登山を諦めざるを得なかった。
今回もチャレンジしてみるが、連日の猛暑とそれに伴う悪視程がそれを阻もうとしているかに見える。
仙ノ倉山や尾瀬のような、あのような暑さでは登山を楽しむどころではない。
また猛暑との関連は不明だが視程が極端に悪くては、景観を楽しむには不適であろう。だが今回を外しては、もう私達には月山登山のチャンスはない。
どうか良い条件に恵まれ、登山を楽しめるよう願うしかない。月山の八合目駐車場では午前4時前から警備員が整理誘導を行っていた。
「ご苦労さまです」と声を掛けると、満杯近くなったら麓で入山規制をすると話してくれた。
この日も、早朝から大型バスが4台、信者さんたちを乗せて到着していた。
花の山なのだ〜!
駐車場で準備を整えていると、白装束に身を固めた信者さんたちが先達に連れられ出発していく。
私達もその後に続いて出発、8合目に広がる弥陀ヶ原は遊歩道が何本も整備されている気持ちの良い草原になっている。
弥陀ヶ原
弥陀ヶ原には、キスゲやコバイケイソウなどが咲いていてきれい。
尾瀬より花数が多く、尾瀬らしい。道はゴロゴロ石が参道のように敷かれているが、歩きにくく捻挫に注意である。
信仰の山には参道のように石が敷かれている例が多い。
外観は良いかもしれないが歩きにくいのではなかろうか。 信者さんたちは歩きやすいのかな?そんな道をゆっくり登っていく信者さん達、たまらず広い所で適時追い抜かせていただく。
傾斜は全体に緩やかで息も切れず、汗もかかない。
緩やかな道が続く
花はキスゲの他にもニガナやアザミ、ツリガネニンジン、コバイケイソウ、イワカガミ、フウロなど種類も多い。
気温もさほど高くなく、風があるので爽快だ。
鳥海山が見えたぞ〜!
30分ほど歩いて、振り返るとスモッグの上に頭を出している山が一つ。鳥海山である。
スモッグの上に頭を出した、鳥海山「まぁ、あれが・・・」カミさん大喜びで、ジッと見つめている。
「明日、登りたくなってきたんじゃないの?」と水を向ける。さらに登ると、行者返しと記された短い急坂。
乗り越えたら、雪渓が出てきた。
そうか月山は夏スキーで有名な所、雪渓があってもおかしくないんだな。
雪渓が出てきた。 朝日を浴びて美しい。朝日を浴びて雪がオレンジ色に染まって美しい。
一休みして景観を楽しむが、山座同定しようにも何処が何処だか分からない。
やはり、ちゃんとした地図を持ってこなければいけないな。(ちなみに月山登山路だけコピーしたものを持っていた)
遠くの鳥海山だけは、分かる追い抜かせてもらった信者さんたちも、一定のペースで雪渓まで登ってきている。
風が強くなって!
雪渓を過ぎて間もなく、仏生池小屋という小屋。
信者さんたちの休憩場所になっているようだ。この付近も花が多くてうれしい。
ハクサンイチゲハクサンイチゲ、チングルマ、ツリガネニンジン、チシマフウロ、トウゲブキ・・・。
トウゲブキ
急に風が強くなってきた、西風である。
花が揺れてピントが合わない。仕方ない、帰り道に期待だ。
お天気は良いが、風が・・・
西に張り出す明瞭な尾根が見えてきた、C1828mのピークからの尾根である。
このピークを巻けば、山頂まで一息のはず。
C1828mから西に伸びる尾根C1828mを左に巻き、更に少し急な斜面を登って小さなピークに差し掛かる。
突然、ものすごい風に襲われる。
しゃがんで耐風姿勢を取らないと、よろけてしまう。
カミさんにストックを強く突いて、岩陰にしゃがむよう指示。
突風のような風が、息をつきながら何度も何度も吹き荒れる。
視界に入っている人達も、岩陰などに身を寄せてしのいでいるようだ。
雲も乱れ、突風に襲われた揺れるカメラをザックに収納し、両手のストックに力を込め、飛ばされないよう注意しながら慎重に進む。
今日の山頂は此処!
急斜面の小さなピークを巻きながら登り稜線の中央を進んでいくと、前方に建物が見えてきた。
間違いなく月山神社の建物。月山の山頂は、月山神社の中にあると聞いている。
私達は月山神社に特別興味があるわけでない。
それならわざわざ強風の中、行かなくても良いか?カミさんに「もう山頂と同じところに居る、神社まで行ってお参りするか?」と聞けば、行かなくていいとの返事。
今日の私達の山頂はここに決めよう。
あっさり立ち止まっただけで、即引き返す。C1828mまで下ってくると風は少し弱まり、ホッとする。
後はゆっくり慎重に下山するだけ、でも突風には注意を払わなくては。
花を愛でる!
帰路は花を愛でながら楽しく降りよう。
仏生池小屋付近には、チングルマ、イワカガミ、アオノツガザクラなどの高山植物が多く、楽しめる。
チングルマ考えてみれば、雪渓があるぐらいだからこれらの高山植物が見れて何の不思議もない。
種類も多く、月山は本当に「花の山」である。
アオノツガザクラただ竸うわけではないが質量ともに日本一の大雪山系とは、規模から言っても桁違いだ。
コバイケイソウ今年はコバイケイソウの当たり年なのか、とても美しく咲きそろっていて幸せだ。
コバイケイソウの群落
仏生池小屋に信者さんたちがやってくるのが見えている。
山頂の強風に耐えて、無事お参りされるよう願うばかりだ。
先達に率いられた信者さん達 もうすぐ休憩小屋ですよ
往路休憩した雪渓場所で、カミさんが突然 「あったわ! これでしょ?」
「よく見つけたね! これだよ。ミチノクコザクラ。」白い清楚なサクラソウ。
私も前回の東北の山旅の時、岩木山で見て以来の花だ。
ミチノクコザクラ
同じサクラソウなのに色が違いだけで、エゾコザクラなどとは印象が大きく異なる。
ミチノクコザクラは清楚で控えめ。
でも芯は強いのかも・・・
ミチノクコザクラ月山でカミさん念願のミチノクコザクラを見られて良かった。
私達にとって、月山は名実ともに花の名山となったのである。
弥陀ヶ原の中宮
順調に下山してきて、弥陀ヶ原に。
帰路は月山神社の中宮に立ち寄ることに。
立派な建物が見えてきた。
弥陀ヶ原に建つ、月山神社中宮中宮は月山に登らない人たちがお参りしたり、登山する信者たちが宿泊したりする場所らしい。
この時も、年配の方々が熱心にお参りされていた。
風車は、子供の霊を祀るためかな?登っている信者グループの親族の方か、下山してきた私達に「上の様子はどんなですか?」と訊ねてきた。
「風が強いですが、経験豊かな先達さんが引率されているのでしょうから大丈夫だと思いますよ」と答えておいた。
羽黒山 五重塔
月山から無事下山し、鳥海山近くの温泉へ向かう途中に羽黒山の出羽三山神社がある。
前回の東北の山旅の時は、羽黒山の長い階段を歩いてお参りした。
その時に、五重塔にはいたく感激した記憶があり、今回も寄ってみようということになった。山門から深い森に入っていく、忘れかけていた記憶が次第に蘇ってくる。
巨大な杉林の中に、五重塔は鎮座していた。
羽黒山 五重塔
均整の取れた素晴らしい五重塔である。
夕方近くで光線の具合が万全ではなかったが、素晴らしかった。
ここの五重塔は荘厳さと歴史を感じさせてくれる。
もう一つ私の好きな塔である、山口の浄瑠璃寺の五重塔は優雅で流れるような感じの塔。見た時のお天気や時間、その時の気持ちや心境などによって、印象は変わるものだが、羽黒山の五重塔は凄いものだと思う。 さすが国宝である。
オジロワシ歌壇
・強風に体折り歩く修験道 白装束は列なし進む
・残雪のくすむ傾り(なだり)のかたわらに みちのくこざくら慎ましく咲く