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雨の降るまえに
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石仏と一緒に一休み
8時半頃、小松大師で朝食のおにぎりを分け合い食べる。
自転車のカップルお遍路が元気な声で挨拶して通り過ぎて行く、若さピチピチの溌剌としたカップルだ。
近所の奥さんが通りかかり「小松大師様にお参り下さって有り難う」と礼を言われドキッ!とする。
実はお腹がすいていて、お参りもしないでおにぎりをパクついていたのだ。
お腹を満たし、感謝の一礼をして小松大師を後にした。9時過ぎ、とうとう雨が降り出す。
丁度、河内小学校近くの地下歩道があったので、そこを借り雨衣を着用する。
お遍路に出て初めての雨である、これから何度味わう事になるのだろう。
しばらく雨が降っていなかったので、きっと農家の人達は喜んでいるだろうねと話しながら歩く。
山間の鉄橋を行く列車
「お遍路さんは道を良く知っている。よくこんな道を」と地元の方にも言われる事がある。
実は全く知らないのだ。
歩けるのは、へんろ道保存協会をはじめ、自治体やへんろに理解のある団体、ライオンズクラブ、ロータリークラブなどなどが色々なマークを交差点や分かれ道、目につき易い所に貼って、お遍路さん達を誘導してくれているのである。
マークのほかには、昔の遍路道標の石柱、現代の「四国の道」の石柱などもある。
たまたまお遍路マークが一カ所に纏まって付けられているのを見つけたのでご紹介しよう。
お世話になった遍路マーク
左は独鈷という宗教用具を組み合わせデザインしたものでガードレールや電柱に吹き付けてある、私達は独鈷が2つあるので「どこどこマーク」と呼んでいた。
真ん中は楽しそうに歩いている2人のシール、カミさんのお気に入りで「ぴょこたんマーク」と呼んだ。
右は一番多く見るマークで多少変形されたもののあるがこれが頼り、不安になると2人でキョロキョロ、あれば安心のマークであった。この他にも何種類かのマークがあり、歩くお遍路さんを誘導してくれるので不安無く歩く事が出来た、ありがとうございます。
牟岐町に入り薬局で残り少なくなったテーピングテープを購入、少し歩いて牟岐の警察署に差し掛かるとテントが張ってあり、「ちょっと」と声をかけられた。
警察に呼ばれるような事はしていないけど・・・、そうでは無くお遍路にお接待をして下さるのだ。
カミさんが確かTVで見た事があると言っていた地元の方達が行っているお持てなしの休憩所である。
お言葉に甘え休ませて頂く、座布団は濡れているからと断り、温かいコーヒー、蒸かしたサツマイモ、紫芋の寒天羊羹、夏みかんなど沢山ごちそうになった。
色々な話に花が咲き、楽しい一時を過ごす事が出来た。
お礼を言って出発しようとすると男性の方が「今日は雨だから、この先あっちこっち入らんで、ま〜すぐ国道を行くんやで〜」と一言。「はーい」と答えて雨の中に踏み出した。確かにこの後、内妻トンネル、古江トンネル、鯖大師手前のトンネルを迂回するへんろ道、鯖大師を過ぎて海岸線を行くへんろ道があったが、接待所の方のアドバイスを守り55号線を車のしぶきを浴びつつひたすら歩いたのでした。
牟岐町を過ぎた付近の海岸
古江トンネルを過ぎた辺り、対向車線に一台の車が止まり中年の男性が降りてきて、私達の方に小走りに渡ってくる。
「ご苦労様です。僅かですがお接待です」と用意された袋を一つづつ下さった。
こんな雨の中、わざわざ。
お礼を言うと、「私も歩いてまわった事があるのです。これから先、きつい所が続きますがどうぞ頑張って下さい」
ああ、なんて有り難い事だろう! 雨でなければ体験談などをお聞きしたいと思ったがそんな時間はない。
心からお礼を申し上げ、車に戻った男性を見送り頭を下げるのみだった。袋の中には大きなバナナと野菜ジュース、小豆のショコラが入っていて、ご自分が歩いて美味しかったもの、食べたかったものを入れて下さったのだろうと話しながら感謝した。
多分、1日幾つかの品を用意され、お仕事の途中にお接待をされている方ではなかっだろうか。
私自身がたとえ四国に住んでいたとしても、出来るだろうかと歩きながら考え込んでしまった。雨に濡れ冷たくなった体と心がジワッと温かくなった一瞬であった。
本当に、ありがとうございました。
お接待に気持ちも温かく
11時頃、鯖大師に着いた。
大雨の中、お寺の軒先にザックを置かせて頂き、お参り。
その名の通り、鯖が・・
大師堂のお大師様は右手に鯖を持って立っておられた。
納経所のお坊さんは納経帳を返しながら「雨の中お参り下さってご苦労様でございます。無事結願されますよう」
この一言にどんなに優しく励まされる事か、有り難く思わず深々と頭を下げた。
鯖大師納経所
不動明王院へも室内からお参りさせて頂いた。
各札所のご本尊が
お参りを終え、駐車場の雨宿りできる所で先ほどの男性から頂いたバナナや野菜ジュースを頂く。
温かいお気持ちがよみがえり、格別の味がした。
浅川を過ぎても本降りの雨は降り止まず、近くの山々もすぐ傍の島も霞んでいる。
車の轍には水が溜まり、通る車が盛大に水を跳ね上げている。
こちらに気付いて減速したり少し避けてくれる車もあるが、仕事で先を急ぐ多くの車にそんな余裕は無いのだろう頭から何度水を浴びた事か。こんな事も関係したのか、カミさんが咳き込み始めた。
ヤバい、咳は喘息の引き金になる。
案の定、気管が狭まってきたのか呼吸の都度「ヒュー・ヒュー」と胸が鳴り始めた。
雨の国道、休む所も無い、道ばたで吸入薬を処置し立ったまま安静を保つ。
処置が早かったためか幸い大事に至らず、5分もすると薬が効いて呼吸も平静に戻った。
宿へは後3km程、ゆっくり歩けば大丈夫そうと言うので気遣いながら歩く。
浅川の海岸線
海陽町に入り、海布大橋を渡った所で今日の宿「遊遊NASAふれあいの里」に電話し場所を確認する。
内心「雨だから迎えに行きましょう」という対応を期待していたのだが、帰ってきたのはきわめて事務的な返答、仕方ない篠突く雨の中カミさんを励まし、結構な坂道を上って宿へ向かった。ホテルへ着き受付カウンターへ行って愕然とした。
入り口でタオルで雨着やザックを一応拭いてから入ったのだが、ずぶ濡れなのは変わりない。
宿泊者名簿を差し出されたが、手も濡れている。
それを見て判っているのに、若い二名の男性ホテルマンはタオルを差し出す訳でもなく、濡れているカミさんの手伝いをする事も無く、ただ黙って突っ立っている。ソムリエの慇懃無礼とは良く聞く言葉だが、こいつらは本当に慇懃馬鹿だ。
遍路旅の間は怒るまいと心に決めていたが、こういう馬鹿を相手に怒らない程お人良いではない。
後ろにいたカミさんも、あの人達「あ〜あ、床が濡れちゃった、拭かなくちゃ〜」て顔してたわよ。とあきれ顔。
不愉快な思いをしてしまったがこのホテル、設備や立地条件などは素晴らしい。
従業員達に明るさや覇気が見えないのは、指導の問題なのだろうか?
ちょっとした気配りを指導すれば、気持ちよく泊まれ利用する人も増えるのにと残念に思った。
支配人初め従業員の皆さん、一度大山寺の仁王様に睨まれて来られたら如何ですか?
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