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黎明の道
朝の岬
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歩き始めて約1時間で浦ノ内湾沿いまで降りて来た、民家も増えあちこちで鶏が時を告げている。
そういえば、このところ毎日この長閑な鳴き声を聞いている。
7時過ぎには中の浦で23号線と合流した。
中の浦
歩道の無いトンネルを抜け、須崎の遍路小屋で休憩。
トイレも水もあり、ありがたく使わせてもらう。大きなセメント工場の脇を歩いている時、平行して流れる川でつがいのカワセミが飛び回ったり、止まったり、求愛行動をしているのを目にした。
背中の美しいブルーが目立ち、いつまで見ていても飽きなかった。須崎はなかなか大きい町で活気もある。
JRの線路を横切った直後、地図を読み違え道を失う。すぐに気付き引き返してこと無きを得た。市街地を通過中、9時オープンの焼きたてパン屋さんで昼食用のパンを購入し、潰さないようにザックの外側に吊るして歩く。
9時過ぎ、海岸近くの高台にある別格5番の大善寺に着く。
鐘楼などの工事中で少々落ち着かない境内であったが、住職さんとお会いしお寺の事や町の事、岩本寺への遍路道の事などのお話を伺う事が出来た。
境内から少し離れた所にある納経所では、奥様から「お接待です」と大善寺特製の吉祥塩を頂き、「お休みの時少しずつ口に入れれば疲れも取れ、きっとお大師様が結願までお導き下さるでしょうから、どうぞ頑張ってお歩き下さい」と言われ、思わず目頭が熱くなってしまった。
ありがとうございました。大善寺近くの道の駅「かわすその里 すさき」で、大休憩。
靴を脱ぎ、早お昼として焼きたてパンを一つ食べる、さすがにふわふわして美味しかった。快晴で気持ちが良いが、暑くなって来た。さすが南国の強い日差し、北国暮らしには堪える。
所々に咲き出している桜が美しく目を引いていた。
美しく咲いた桜
須崎からは短いながら3つのトンネルを通りその都度、ご真言をブツブツ唱える。
そうすると車が離れて行くような気がするから不思議だ。
安和の町に入る手前で焼坂峠への道を右に分ける。
私は峠越えルートを取る予定だったが日差しも強く暑くなって、カミさんはトンネルも嫌だがこの暑さの中で山を越えるのはもっと嫌と言う。
仕方なく、息苦しくなるのは承知の上で焼坂トンネルへと突入した。
焼坂トンネルは長さ約1km、ものすごい交通量で何度か車にすり寄られて怖い思いをし、排気ガスと騒音に苦しめられながら、通過した。
トンネルの中で、逆打のお遍路さんとすれ違い「頑張って」と声を掛け合った。やっとトンネルを抜け、うがい。なかなか喉のいがらっぽさが無くならなかった。
カミさんには内緒で、これから迂回ルートのあるトンネルは通るまいと、密かに決心したのである。トンネルから約1kmの所にあった休憩所で休み、昼食をとる。
国道脇の休憩所で風情も何も無いが、お腹の足しにはなった。
宿を予約している土佐久礼はもう近いがまだ昼過ぎだ。
このまま宿に行けば迷惑をかけると、町をぶらついてから行く事にする。
土佐久礼の町は小さいが落ち着いた感じで歴史もありそうな町。高知県で一番古いと言う造り酒屋さんがあり、見学させてもらう。
古い陶器なども展示されていて、ゆったりした時間を過ごした。
土佐久礼の造り酒屋で
次いで土佐久礼の漁港近くの海岸へ行く。
既に引退した元漁師らしき一団が海辺でたき火を囲みながらのんびり話をしている。
どうやら日がな一日そうしているようだ。
若い頃、腕を競った事や、稼ぎ高、船の善し悪し、跡継ぎの事、きっと話題は尽きないのだろう。
こういう姿を眺めていると、人生あくせくして暮らしていても、のんびり暮らしていても、結局は一緒ではないかと思えてくる。
お金を沢山持っていても、いなくても、心の持ちようで幸せにも感じ不幸にも感じる。現代を生き抜く為には、厳しい競争に打ち勝ち生き残らなくてはならない。
名誉、昇進、肩書きなどと言う競争社会の一等賞。
そうしたものを目指したギラギラした一時期を全く持たない人は不幸だとも思うが、政治家のようにいつまでもギラギラ脂ぎっている人も不幸だなと思う。
一時期は会社のため社会の為と目一杯努め、ある年齢からはここの人達のようにゆったり暮らすのが人間らしいのではなかろうか。そしてこの海岸は猫の似合う浜。
ノラがあちこちに寝転び、自由気侭に生きている。
そしてなぜか鶏も。
実に平和な、静かな町。
自由に生きる
1時間以上も日向ボッコをしながら美しい海岸を堪能しつつ、老後の暮らしぶりなどを思い思いに話しながら時を過ごした。
静かな土佐久礼の海岸
今日の宿は昨日の漁師宿とは全てが対照的。
土佐久礼の昔からの旅館らしく風格すら感じさせる。
部屋の天井は舟天井、次の間付き、調度品やお布団、食器、どれをとっても成る程と思わせるものばかり。
食事も薄味だが、しっかりした味付け、洗練されていた。
ジーパンの似合う若女将が大女将と連携して、客をもてなしてくれる良い宿だ。
昨日のような宿も良いけれど、毎日ではちと辛い。
こちらは連泊しようかなと言う気にさせてくれる宿だと感じた。
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