芦別岳 (1726m) (夕張) 2005.7.14(木) 晴れ
|
芦別岳、夕張山地の最高峰としてだけでは無く、その天を衝く鋭い岩峰としても、また希少価値のある花の山としても名を馳せている山でもあります。 芦別岳の凛とした鋭い山容を「北海道のマッターホルン」「ピラミッド」「槍の穂」「北海道の谷川岳」などと様々の人達が夫々の表現をしています、あの深田久弥さんは「行く手に芦別岳が鋭い岩の穂を現した時には、思わず歓声を上げた。それはピラミッドと言うにはもっと細く、犬歯のような鋭さで立っていた」と表現されています。 私の富良野周辺の山を訪ねる3日間の山旅の2日目は、この芦別岳にする事にしました。 その思いをもう一度味わってみたい、そして今回の私自身の体力C'Kにも最適の山ではないかと考えたのです。 前日の富良野岳、上ホロカメットク山を下山して十勝岳温泉でゆっくり寛いで、山部の太陽の里のキャンプ場で一泊しました。 |
朝まだ薄暗い0330に目覚め、朝食は歩きながら食べれば良いと準備もそこそこにキャンプ場を後にしました。
旧道登山口で登山届を出して歩き始めます。
登山届にはこの七月に入ってから数人の人の名前しかありませんでした。
道はユーフレ川左岸沿いに付けられていて、昨年の台風で受けた被害も地元の山岳会などの御努力でしっかり修復されています。
以前の記憶との違いは、転落死亡事故が起きた所の高巻きはさらに大きく高く巻くようになっていてまさに大高巻き。
その他には以前は無かった高巻きが幾つも新たに作られていました。
ユーフレ川は雪解け水を集めて滔々と流れていて怖いぐらいです。
不動の滝や三段の滝も水しぶきを巻き上げて迫力満点に流れ落ちていました。
三段の滝 |
夫婦沢の出合に着きました。旧道はこれを右に取るのですが、前回訪れた時にユーフレ小屋を見ていなかったので寄り道してみる事にしました。
小屋はうわさ通り、石造りのこじんまりした落ち着いた雰囲気の小屋でした。
中を覗いてみました、誰も居らず、でも奇麗に片づいていました。
緑に囲まれ、何とも良い雰囲気のユーフレ小屋 |
旧道分岐まで戻り、夫婦沢の右岸を北尾根目指し遡ります。
ここからは道がやや荒れてきて、木々が被っている所もあり、思ったより時間が掛かりました。
斜度もかなりのもので、つらい辛抱の時間が続きます。
右手に槙柏山の岸壁、左手に夫婦岩の岩峰が見えてきますが、なかなかその高さまで辿り着けません。
夫婦岩 |
そのつらさを癒してくれるのは道端に咲く花々です。
ミツバオウレン、オオバミゾホオズキ、ノビネチドリ、ハクサンチドリなどが点々と咲いていて、励ましてくれるようです。
色の濃いハクサンチドリ |
沢水が涸れた後も登りはまだまだ続き、泥濘んだ道を黙々とカタツムリのように進んでいきます。
いくら登っても稜線空間らしきものが見えてきません。
いい加減嫌になった頃、風が通り始め、北尾根の取り付きに乗りました。すでに4時間近くが経過しています。
夫婦岩を巻くようにしながらさらに急登を頑張ると急に見晴らしが開けました、北尾根に乗ったのです。
行く手正面に岩の支稜を従えた、「芦別の牙」がスックと立っていました。
新たな感動と感激が沸き上ってくるようです。
ニペソツを前天狗から見た時の印象と似通った心の感動です。
姿を現した芦別岳 |
これから進む北尾根には幾つかのアップダウンが連続していますが、憧れの目標が見えているだけ励みにもなり、北尾根への登りより幾分楽のように感じました。
周囲の山々も見えています。
北西方向には恐竜の背骨のような崕山が見えています。何時かは訪れて見たい山の一つです。
尾根上にはシナノキンバイやトウゲブキなども咲いていて目を楽しませてくれます。
シナノキンバイ |
風は通るのですが、炎天下。稜線で日を避ける訳にもいきません。
さらに苦しめられたのは、ハイマツが道を覆っている為、漕がなくてはならないのです。
しかも今はハイマツの花の時期、花粉が漕ぐたびに舞い上がりまるで黄な粉をまいたよう、霞がかかったようなのです。
喉はいがらっぽくなるし、咳や涙は出る、シャツやズボン、ザックは黄な粉を振りかけたような茶褐色になっています。
そんな時勇気を与えてくれるのは、やはり芦別岳の雄姿です。
一つピークを登る毎に近くなり、大きくなってくる芦別岳の鋭峰。
「今行くよ〜。待っていてね〜」
まさに「芦別の牙」 |
オオタカネイバラが可憐な姿で所々咲いていて、励ましてくれます。
いつもなら何カットか撮影するのですが、一枚撮っただけで後は疲れて面倒くさく挨拶だけして素通りです。
そのツケか、撮った写真は花びらが傷んでいるものでした。それすら気付かないほど疲れていたのですね。
オオタカネイバラ |
北尾根は段々細くまさに足幅の幅となって両側が切れ落ちるようになってきます。
キレットと呼ばれる所にきました。
記憶ではここからは大した事無かったとの思いがあり、元気を奮い起こして両手両足総動員で乗り越していきます。
キレットからの芦別岳 |
稜線にはカラマツソウ、ハクサンボウフウ、ハクサンイチゲ、シナノキンバイ、ハクサンチドリ、ミヤマダイコンソウなどが岩肌を飾っていたり、谷あいを埋めていたりしています。
谷あいを埋める花々 |
鋭く尖っていた芦別の牙は次第にその鋭さを緩め、穏やかな形に近づいてきました。そして狭く険しかった稜線も広くなってきました。
大きな雪田が現れ、いわゆるお花畑が近づいてきたのです。
時期的にはすでに終わっているはずの珍しい草花を探してみましたが、登山道からは良く分かりませんでした。
山頂直下の御花畑、目指す芦別岳はあと僅か。 |
その代わり、山頂直下で青い可憐な花が咲いているのを見つけました。
ワォ〜! エゾルリソウだ! 長かった行程に堪え、山頂にもう一息という所で、出会えるとは思ってもいなかった花に出会えて、頑張った御褒美のような気分でした。
エゾルリソウ |
山頂直下の岩を攀じると山頂に飛び出しました。
「ヤッター!」思わず無言で山頂標識を触りながら、登頂の喜びを噛みしめました。
山頂には新道からこられた人が4人ほど、皆さん登頂を果し、満足そうな笑顔で休んでいます。
山頂からポントナシベツ岳、遠くは夕張岳 |
歩き初めて概ね七時間半、360度遮るものの無い芦別岳山頂で充実感に思いきり浸りました。
昼食を摂りながら景色を見ていると、夕張山地と言うのは東西から押し付けられた力で盛り上がった地形のように思われました。
南北に長く、東西に短い山が何列も並んでいるように見えます。
その為、芦別岳も夕張岳も東西からはドッシリとした台形のような形に、南北からは鋭いスマートな形に見えるのだと感じました。
小一時間ゆっくり休んで、御一緒した方達と写真を撮り合ったりして、下山する事にしました。
新道を下山していきます。降り始めて直ぐの雲峰山への雪渓はまだ大きく傾斜も急ですが道はその脇を通れるようになっていて心配は無用でした。
雲峰山からは歩いてきた北尾根を見通す事が出来ました。
北尾根を見る。夫婦岩のいわゆるXルンゼが良く分かる。 |
半面山で芦別岳の見納めとなります。
「素晴らしかった、どうも有り難う」芦別岳に挨拶してお別れです。
半面山からの芦別岳 |
半面山からは淡々と一気に下っていきます。
新道を登った事がないので何とも言えませんが、距離的に近く時間も短縮出来るのでしょうが、半面山まで見るべき景観も無くひたすら登るのは何か風情が無いように思われるのですが、どうなのでしょう。
いい加減単調な下りに嫌気がさしてきて、痛めていた左膝に痛みを感じ出した頃、ようやく新道の登山口が見えてきました。
想像していた通り、私にとって結構ハードな山行でした。
でも、疲れを補って余りあるほど、素晴らしかったと言う気持と満足感で一杯です。
後5年経ったら、再びチャレンジしようと言う気力があるかどうか、そんなことをふと思いました。
体力C'Kの2日目も何とか無事終了しました。
さて、3日目はどうしようか?
1人の私が「自分でやろうとした事なんだから、明日も頑張れ!」と言っています。
もう1人の私が「膝も痛み出した。無理を為れば元も子もないぞ!」と言います。
どうしよう? 決めるのは自分だ。
さらにもう1人の私が「午後から曇ってきたし、視程も悪くなってきた。明日はダメだよ」
そして最後の私が「二日間もロクなもの食べていない。今日は上手いもの食おうよ」
ヨ〜シ! 決〜めた。
キャンプ場の洗い場で身体を拭き、こざっぱりした私は急遽予定変更、ハンドルを自宅へと取ったのでした。
やっぱり、縦走3日は無理なんだろうな〜!!