イチャンコッペ山より恵庭岳を望む
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プロローグ
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ポロピナイから丸駒温泉への道を左に分けて直ぐの支笏湖展望台が、イチャンコッペ山の登山口である。
気温は然程低くなく風も弱い、夏は大汗をかかされるイチャンコッペ山の取り付き尾根をスノーシューで登り始める。
先行者が一人おり、有り難くそのトレースを利用させてもらうが結構キツく喘ぐ。鹿道が何本も横切り、狐や兎の足跡も多い、木の幹の皮が食べられ痛々しい。
アカゲラやヒヨドリのさえずりが響く中をゆっくり登っていく。
雪はしっかりあり笹も所々頭を出している程度だがまだ締まっておらず、時に笹の落とし穴にはまり腰まで落ちて這い出すのに苦戦する。やっとの事で尾根を登り切り幌平山とイチャンコッペ山のコルへ向けトラバースに入る。
紋別岳へ続く稜線が支笏湖へと急激に落ち込んでいるカルデラ壁が印象的だ。
紋別岳へ続くカルデラ壁
夏道を辿るときは感じないが、雪壁のトラバースは思ったより急角度で歩く端から雪玉が転がり落ち縞模様を作っていく。
バランスを取りながら進んでいくが、何か調子が上がらない。
体が重いと言うか、気力が湧かないと言うか、錨でも引きずっているような感じである。
この数年、年に何回か感じる違和感、これが老化現象なのかな?
齢なのだから仕方が無い、仲良く付き合っていかなくてはと思う一方で、そんな筈は・・・とショックを受けている自分が居る。8合目のアンテナ・ピークが辿る稜線とともに青空に映えている。
8合目ピーク
一人黙々とラッセルしながら進んでいく。
スノーシューやストックが雪と擦れ「グ〜、ギュウ〜、キュッキュ!」等と鳴いている。
誰かが来たのかと思い何度も振り返った。雪は音を吸い込んでしまう、雪の林の中は音の無い世界、自分の息と足音だけが響いている。
その余りの静けさに居たたまらなくなって、景色を見やり写真を撮り独り言を呟く。
支笏湖が逆光に鈍く輝いてている。
支笏湖と風不死岳・樽前山
何度か笹の落とし穴に落ち悲鳴を上げ、その都度苦労して這いずり出ながら、625mPを巻き8合目のアンテナ・ピークへの急斜面に掛かる。
この斜面から振り返る凛々しい恵庭岳の姿が私は好きである。
期待して振り返るといつの間にか雲が覆い始め、青空にクッキリした姿は望めなかった。残念!
恵庭岳
体は相変わらず重く、疲労感も漂い気持ちも沈む。
ポゲットから干しぶどうを取り出し、口に放り込む。
時間は幾らでもある、焦る必要は無い。自分にそう言い聞かせ次の一歩を踏み出す。
8合目ピーク
8合目ピークは山頂より展望に優れていると思う。
圧倒的な迫力で迫る恵庭岳、その奥に広がる漁岳や空沼岳・丹鳴岳、支笏湖を挟んで樽前山・風不死岳・ホロホロ山・徳舜瞥山などなどが何時も疲れた体と気持ちを癒してくれる。
だが今日はその景観は雲に覆い隠されつつあった、速い速度で雲が広がり小雪も舞って来た。
イチャンコッペ山(奥)
先行者のトレースはここで引き返している。
たおやかな稜線上を紋別岳や千歳や恵庭、北広島の市街地を右手に見ながらゆったり進む。
兎の足跡が入り乱れている、今通ったばかりの鋭い爪跡がはっきりしているものもある。
何をして遊んでいるのだろうか?820mPを過ぎて一旦下り、登り返せばイチャンコッペ山山頂である。
広く平らなイチャンコッペ山に到着。二年振りの山頂だ。
夏場は笹で覆われている最高点まで行ってみる、かって米軍が作ろうとしたレーダサイトのコンクリート基礎の残骸が醜い姿をさらしていた。
平たい山頂
雲の合間から陽が差し込んで来て、山頂部が目映く美しい。
晴れて景観が楽しめる事を期待しながら、コーヒーを飲み、おにぎりを食べる。
温かさが胃の腑に染み渡るようだ。調子が出なかったせいか、意識してゆっくり来たせいか、3時間近くも掛かっている。
イチャンコッペ山は近場だからかなりの回数訪れているが、多分最長時間記録ではないか?
それでも山頂に立てば気持ちが良く晴れ晴れとする。
山頂から恵庭岳方向
紋別岳方向方向の視界は良好だが、他は雲に覆われボヤ〜としている。
パーカーを羽織ると寒さは感じない、疲れた体と気持ちが回復するのを待ちながら小雪混じりの霞んだ景観をボンヤリ眺めていた。紋別岳と風不死岳
見る限り誰も登って来る様子は無い。
静か過ぎて手持ち無沙汰になって来た、そろそろ下山するか。
8合目ピークと恵庭岳
ここだけ日が射しているかのような山頂は青空を背景に美しい。
自分の足跡が潔い雪面を汚してしまったような気持ちにとらわれる。
広い山頂
帰りは自分のトレースを忠実に辿りながら降りる。
急斜面ではスノーシューを滑らせながらも転ばないよう注意が肝心だ。
六合目で今日初めて登山者と出会う。まだ若い方だ、トレースのお礼を言われる。
何かおしゃべりしたい気分にとらわれるが、相手のペースを乱しては申し訳ない。
一言挨拶を交わしてすれ違う。行きには巻いた625mPを経由し、時間があったら立ち寄ろうと思っていた幌平山へはその気にもならず真っすぐ下山した。
駐車場に着いて片付けをしていても何時もの晴れ晴れとした達成感を感じる事は無く、体の重さと疲労感も納まらなかった。
温泉に入る気もなくなり、真っすぐ帰宅。
帰り着くとカミさんが「とても疲れた顔をしているわよ。大丈夫?」
次の山行にダメだしを出されたらかなわないので、「大丈夫、何でも無いよ。」ととぼけたが、バレバレだ。
体調管理にもっと気を使わなくてはならないのかな・・・。
節制、特にお酒を控えたりするのは辛いけれど、調子が良くなければ山へ行っても楽しくないものな〜。