朝起きると快晴とは言えないまでも晴れている。
今日はカミさんは用事があるので出かけるとすれば私一人だ。
晴れているなら恵庭岳に行ってみたい、凍てついた岩峰を久しぶりで見てみたいと思ったのだ。
ピッケルやアイゼン始め万全の準備を整え家を出る。
でも、支笏湖までやってくると周辺の山々は中腹から上は薄い雲に覆われている。「こりゃダメだ!」雲の中を登っても面白くない。さてどうしよう?
しばらく考えた末、滝巡りをしてみようと考えを変えた。
陽光に輝く青氷の滝も良い物だと思ったのだ。
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除雪されている千歳鉱山跡に車を停め、歩き出す。
先週末に降った大雪のせいか、予想以上の深雪である。
スノーシューを履いても、膝上から太腿位まである。
正直、止めようかと思った程の深い雪であった。沢の右岸の歩き易いコースを選びながらゆっくり進んで行く。
沢沿いに
滝まで1kmほどと判っているから行くのであって、これが5kmもあるのなら一人で頑張る気持ちにはとてもならない深い雪である。
美笛の滝へと続くルートは沢を挟んでのV字谷を行く。
そこをトラバース気味に登って行くのだ。
深い雪の中、谷側の足は踏み出せるのだが山側の足はただでさえ高い位置にあるので、雪を跳ね上げ踏み出すのは困難だ。
膝を折って足場を作り、そこにスノーシューを蹴り込みながら、まさに一歩一歩である。
滝はV字谷の奥にある気温はかなり低い筈だが、汗が噴き出してくる。息も荒い。
かすかに目指す美笛の滝が見え出してきた。その前に左からの雪崩斜面を横切らなくてはならない。
すでに小さなデブリが何本も流れ落ちている。
決して気持ちの良い光景ではない。一人なのだから巻き込まれたら誰も助けてくれない、一巻の終わりなのである。
少し休んで息を整え、上を・雪崩の兆候を見据えながら急いで一気に横断する。
やっと、美笛の滝へ辿り着いた。
夏なら20分程で来られるのに、なんと1時間15分もかかった。
今年一番のラッセル、我ながら良く頑張ったと思う。それなのに、それなのに、目の前にあるのは一体何なんだ!
確かに全面結氷した美笛の滝である事は間違いない。
ただ雪が大量に被っていて氷壁ではなく雪壁と化している。
滝の下側三分の一位は滝や岩から落ちた雪が溜まり、埋まっている。
雪に覆われた美笛の滝
雪の下からは確かに青い氷が顔をのぞかせているが、期待してきた陽を浴びて燦々と輝く滝のイメージとはほど遠かった。
「折角苦労してきたのに・・・、残念無念!」
呆然と雪に覆われた美笛の滝を見上げるだけであった。
青氷も一部見えていたが・・・
自然の力とは恐ろしい程、凄い。
例年ならば姿を見せている滝の基部近くにある大岩も雪に埋もれているし、何時もだったらアイスクライミングの技術を持たない私等は近寄れない氷壁も下半分なら簡単に登れる。青氷に近づいて耳を澄ますと氷の下を流れる水音が小さく聞こえていた、姿は見えないけど春は着実に近づいているのだな。
折角来たのに期待したような素晴らしい滝の姿に出会えなくて残念だったけれど、これが自然の摂理なのだから仕方ない。
またチャンスもあるだろう。
そう思い直して下山にかかる。
ゆったり下る
トレースの付いた下りは、これが同じルートかと思う程快適だ。
荒い息を吐きつつ、休み休み登ってきたのが嘘のよう。
雪崩斜面だけ注意すれば、後は鼻歌混じりの楽々ルートである。時折覗く美笛川の川面にはまだ雪がたっぷりと乗っているが、ほんのり苔の緑色が見え始めていた。
緑の気配も見え始め
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七条の滝へはこの1月に一度見に来た。 1月に訪れた時との違い・変化もご覧頂きたいと思います。 |
七条の滝へは林道を利用して約2km、これは楽勝と思った林道の除雪も僅か500m程で終わっていた。
美笛の滝ほどではないが膝下までの雪、湿っていて重い雪だ。
一人で話し相手もいない林道を黙々と歩くのは結構辛いものがある。林道から外れ、滝への降り口からは急な深雪の下り斜面。
スノーシューのまま下り降りる。
それまで「シ〜ン!」と静まり返っていた林の中から、急に水音が音高く聞こえてきた。
七条の滝が見えてきた。
1月の時より氷柱は大きく成長し、数も増えている。
なかなか見事である。
七条の滝
慎重に落ち口付近へと行ってみる。
滝壺付近も水しぶきが凍り付き、独特の姿形を見せている。
久しぶりに見る、七条の滝の凍った姿である。
滝の落ち口
滝の周囲、巾30m程に亘ってしみ出した水が凍り、氷柱となって垂れ下がっていて美しい。
美笛の滝程ではないが、ここの氷も薄青い色をしている。
氷柱が下がる
しばらく冬の七条の滝の姿に見入っていたら、寒くなってきた。
名残惜しいが引き返す事にしよう。
滝の下流方向
凍り付いた七条の滝の姿を見て大満足、林道を淡々と戻る。
ふと気付くと、私のトレースの上に一頭の鹿の新しい足跡が付いている。鹿道を私達が利用させてもらう事は度々だが、鹿が私のトレースを利用しているなんて始めて見た。
考えてみれば、鹿だってラッセルするより楽に違いないものな〜。
「ちょっとお礼のつもりで姿ぐらい現したら、どうなんだい?」