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富良野岳
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気持ちの良い日、富良野の原始が原でのんびりだらだら一日を過ごしてみたい。
そんな思いを心の奥に秘めていた。原始が原を訪れると私はいつも、倉本聰さんの「ニングル」という本を思い出す。
森の妖精「ニングル」のお話、面白いばかりではなく考えさせられる本でもある。
富良野の森の中で何か気配を感じると、ニングルではないかと目を凝らす自分がいる。
実際はエゾリスであったり、キタキツネであったり、鳥達であるのは分かっているのだが・・・・。お天気間違いなしの秋の一日、カミさんを誘って原始が原を訪れることにした。
沢沿いの滝コースから登って、原始が原でだらだら日がな一日を過し、林間コースを戻るという計画である。前夜は山部の太陽の里キャンプ場で車中泊。
早朝、霧が流れ、朝日が反射し黄金色に輝いている。ちょっぴり幻想的な雰囲気。
今日は何か良いことがありそうだ。そんな気になる静かな朝だった。
霧の朝
朝霧の中を原始が原の富良野岳登山口へ車を走らせる。
富良野の麓郷から布礼別へ向かう道々253号線には、原始が原への案内表示が要所に出ていて迷うことなく登山口である「ニニウの森」に着くことが出来る。登山口には小屋と簡易トイレが設置されていて、車も十分停められる。
丁度男女5人のパーティが出発する所、挨拶しながら私たちも準備を整える。入山届けを記載しいざ出発しようとしたら、赤い×印が気になる標識がぶら下がっている。
原始が原へ至るルートの一つで、私たちも歩こうと思っている「滝コース」。
一番下流にある不動滝付近で岩が崩れ通れなくなっている、その他にも崩れそうな所があり、滝コースは全面立ち入り禁止にしますとの案内である。ありゃりゃ!
期待していた滝コースが通れないとは・・・、残念だけど仕方がない。
原始が原だけでも楽しもうと、林間コースを登ることに。
右下を流れる「滝コース」の布部川の沢音を聞きながら、林間コースを登って行く。
単調なコースの途中に「天使の泉」という水場があり、先行のパーティが休んでいた。
急ぐ訳でもないので、私たちも美味しい水を頂き一休み。
周囲の山の山肌は秋の彩りに染められ始めている。
錦秋の始まり
天使の泉を過ぎると、間もなく三の沢を横切る。
ここには「広原の滝」が架かっている。岩肌の苔の緑と水の白さが映えて美しい。
広原の滝
三の沢を横切ると急登となり、ひと頑張りすれば原始が原の一角に飛び出した。
久しぶりの原始が原独特の風景が広がっている。
安らぎを感じる景観である。
青空を背景に聳えたつ富良野岳が凛々しい。
原始が原からの富良野岳
この景観を見て触発されたのか、カミさん「登ってみようか?」
時間はたっぷりあり大丈夫、「少し、キツいよ!」と言うがカミさんのやる気は満々である。問題が一つ、水だ。
原始が原散策のつもりだったので、ペットボトルに500ccづつとテルモスに入れたコーヒー500ccしか持って来ていない。
足りなくなったらそこまでと、富良野岳への登山道へ足を踏み入れた。
原始が原を歩くには、湿原の中にあるかすかな踏み跡と赤テープが頼りである。
踏み跡を外すと広大な同じような風景だけに、何処が何処だか分からなくなり注意が必要だ。
登山道はそんな踏み跡を辿り、緩やかに登って行く。先行していた5人パーティに何度も追いつき、その都度小休止しながらゆっくり登って行く。
標高1300m付近から見晴らしが良くなり、前富良野岳、南側のトウヤスベ山・大麓山が紅葉に彩られた山肌を見せ、遠くには夕張岳が独特の姿を見せるようになってきた。
夕張岳
道は小さな沢型を登るようになり、周囲の紅葉が美しい。まさに錦秋の彩りである。
先行パーティと歩調が合わず、すぐに追いついてしまうのでお断りして追い抜かせて頂く。
錦秋の登山道、上部には富良野岳山頂部
標高1600m付近からは隣の前富良野岳と原始が原が俯瞰出来る。
原始が原の笹原と草紅葉、アカエゾマツ、ハイマツの取り合わせが絶妙な風情を醸し出している。
原始が原と前富良野岳
登る沢型はやがて急なザレ場となり、歩きにくいことこの上ない。
慎重に足を置くが滑って体勢が不安定になる、小さくジグを切りながらのキツい登りである。たまらず、しっかりした岩を見つけて休憩。
水を節約しているせいか、完熟しているコケモモやガンコウランの実が甘酸っぱく美味しい。
のどの渇きもいやされる、いつしか二人とも本気になって摘み取り口に放り込んでいる。
口や指先が紫に染まっているお互いを見て大笑いしながら、子供の頃にサクランボや桑の実を隠れて食べては叱られたことを思い出していた。急に雲が湧きだしてきた、折角やる気になって登り出したのだから、もう少し晴れていてほしいな〜。
ザレ場が続く
火山礫の急なザレ場、いい加減嫌になってくる頃、低いハイマツ帯となり斜度も緩んで岩混じりの稜線に出た。
山頂に休んでいる人達が雲の中に影絵のように見え始めた。
富良野岳山頂(右奥)
雲に覆われた山頂には10人以上の人達が休んでいた。
「こんちちわ〜」と登り着くと、自分たちと反対側から人が来ると思ってもいなかったのか「わぁ〜ビックリした〜。何処から来たの?」残念ながら山頂は雲が流れ、十勝岳も見えない。
一時的に堺山方面が見えたのが唯一の景観であった。
山頂からの見えた唯一の景観
お仲間に入れてもらい、パーカーを羽織り腰を下ろす。
「結構キツかったね〜!」などと話しつつ、お昼ご飯。
お腹も減ってフランスパンにバターやコンデンスミルク、キュウリにマヨネーズ、リンゴ、桃のゼリーと質素なものだが美味しく感じる。水を飲もうとして、思わず歓声!
節約しなければと少し我慢して来たのは事実だが、僅か100CCしか減っていない。
カミさんも250CCほど。やれば出来るものだと笑ってしまった。
でも安心は禁物、帰りもある。ここはグッとこらえてコーヒーを一杯づつで辛抱だ。
山頂
小1時間、山頂で雲が晴れるのを待ったが変化はない。
諦めて、下山することに。急な火山礫のガレ場は滑るのと落石に注意しながら慎重に降りる。
気は使うが、下りは早くてやっぱり楽だ。
あっという間に、原始が原が近くに見える所まで降りて来た。
原始が原を挟んで、トウヤスベ山・大麓山
湿原の泥に靴を汚しつつ、原始が原を気持ち良く歩く。
静謐な時間、広大な原、気持ちが大きく優しくなる。
カミさんもここがお気に入りになったようだ。この次は滝コースを楽しもうと話しながら、来た道を戻る。
三の沢の徒渉では、危うく水に濡れる所だった。
三の沢の徒渉
天使の泉に到着。
お待ちかね、遠慮なくたっぷり水を頂く。
いや〜、美味しい!
秋の一日、原始が原でのんびり過ごすつもりだったのに、ヒョンなことから富良野岳を訪れることになった。
湿原で靴は汚れ、急な火山礫の斜面はキツかったけれど、秋色の富良野岳を楽しめた。
水を500CCしか持たずに登ったのも、変な意味で記憶に残る山行になった。
次に訪れる時は、本当にゆっくりのんびり、だらだらと原始が原を楽しみたいと思う。
・風雪に耐えたるエゾ松(まつ)は凛と立ち
原始の森に秋の風吹く・一山を越えれば遥かかすむ街
山も恋しい人も恋しい