・風薫る
燦々とした陽光が降り注ぎ、微風が花の香を運んでくる雨竜沼湿原である。
緑一面の湿原を花を見ながら歩くのは、実に気持よく楽しい。三々五々歩いている人たちも思いは同じらしく、花を見ながら心地良さげに歩いている。
平日だけに私達と同年輩のいわゆる老夫婦の姿が多い。目立つのはご婦人のカメラ姿、花をちょっとと云う感じではなく本格的に写真をやっているというスタイルで、構えているカメラやレンズも超一流ばかり。
好きな事に時間とお金をかけられる女性がそれだけ多くなったということだろう。
風薫る湿原を行く
木道はゆるやかに伸び、南暑寒別岳との分岐へ進んでいく。
エゾカンゾウやワタスゲ、コバイケイソウが目立つが、草の中にはヒメシャクナゲ、ツマトリソウ、ミツバオウレン、ウメバチソウ、ホロムイイチゴなどの花も数多く咲いている。
花の湿原をどこまでも
ハクサンチドリは全体に小さく高さ10〜15cmぐらいの花が多い。
色変わりのものも多く、とても楽しめる花の一つだ。
ハクサンチドリ
小さな花を見つめたり、大きく広がる湿原を眺めたり、その度に気持が変化する。
それが良いのか、かなりの時間歩いてもさして疲れは感じない。
楽しいことは時間の立つのも忘れてしまうのと同じ現象だ。
広々した湿原
普段良く見ることもないコバイケイソウの花。
良く見ると花の一つ一つは繊細なのに、全体で見るとイカツイ感じ。
その落差というか齟齬さが面白い。
コバイケイソウの花
そして群落として眺めると、緑を引き立てる楚々とした一面を見せるのだ。
コバイケイソウの群落
・高みから
この日は出発も遅く、南暑寒別岳に登る予定はない。
そこで湿原から少し登った湿原展望台まで行ってみた。
ベンチが置かれ、以前より見晴らしよく整備されている。
展望台から見下ろす、雨竜沼湿原
見下ろす雨竜沼湿原は池塘が目立ち湿原独特の景観が広がって美しい。
ただ写真でも判るように、湿原の周囲から緑色の濃い笹の部分が着実に広がりつつあるのが見て取れるのが気がかりだ。展望台でご一緒した人たちと歓談したり写真を撮り合ったり、おやつを食べながら景観を楽しむ。
湿原の花とは言えないが、展望台付近から湿原に流れ込む小さな流れにも花が多く咲いていた。
ミゾホオズキ
チシマノキンバイソウ
オオバナエンレイソウ
ミヤマキンポウゲ
ミヤマキンポウゲやチシマノキンバイソウはいかにも夏の花らしい華やかなイメージをもつ花だ。
陽光を浴びると光輝き、金の盃のようにも見える。
金梅草を金盃草と思っている人が多いのも頷ける。この場所でオオバナエンレイソウを見たのは初めてだった。
・乾燥化?
展望台から湿原に戻り、右回り一方通行の後半部分を楽しむ。
ヒメシャクナゲが所々に咲いていて、実に可愛い。
初めて見た時はコケモモかと思ったが、葉がシャクナゲそのものなのだ。エゾカンゾウが群落とは言えないが、多くなってきた。
何時だったか、エゾカンゾウが群れ咲く池塘と暑寒別岳の写真を撮ったことを思い出した。
エゾカンゾウ咲く湿原風景
ヒオウギアヤメも多くなってきた。
優しい表情のアヤメなのだが、花弁中心部の虎模様が勇まし過ぎる。
ヒオウギアヤメ
花の写真を撮るにも三脚を立てたり外したり仕舞ったり結構面倒だ。
つい「ちょっと持ってて!」とカミさん頼りにしてしまう。「ごめんね! ありがとう。」
三脚やストックを持ってもらい・・・
一人の女性が木道に荷物を置き、三脚を立てカメラと格闘している。
傍を通りながらふと見ると、コウホネが2輪咲いていた。
思わず歓声を上げる。1年ぶりの再会だ。
だが木道からの距離約4m、望遠なしではとても捉えられない。
後ろ髪を引かれる思いだが、すっぱり諦めた。イワイチョウも木道の両側に沢山咲いている。
遠目では引き締まった美しい花なのだが、近寄ると蕊が丸まっていて目が回るようだ。
イワイチョウ
大いに楽しませてもらった雨竜沼湿原とその花達。
だけど一つ気になったことがある。
それは湿原全体が乾燥化しつつあるのでは? ということ。
雨竜沼湿原には花も多く湿原らしい景観に満ちている。
でも湿原性の花の多くは池塘や流れの脇に限られ、流れから離れた所では少なくなっている印象を受けるのである。
地面を触ってみると乾いている。指が入り込む水分や柔らかさがないのである。
最近、雨が少なかったせいかもしれないし、今年だけのことかもしれない。私だけの危惧なら良いのだが、笹の侵略や湿原の乾燥化は雨竜沼湿原の生き死ににも通じる重大事だと思うのである。
もしそうなら、早め早めの対策を確実に打ってほしいと思う。
美しい雨竜沼湿原の景観をいつまでも・・・
・夕焼け
大いにに楽しませてもらった雨竜沼湿原、下山してから北竜町の温泉で汗を流す。
道の駅の温泉は綺麗で気持ち良いし、売店で売っている野菜なども新鮮で安い。
フルーツを味わえなかったこの日の反省から、明日のためトマトを沢山買い入れた。温泉で汗を流した後は、明日の暑寒別岳に備えて留萌の海岸へ。
そこでは、期待もしていなかった夕焼けに出会うことに。時間の経過とともに何枚かの写真をご覧頂こう。
色の変化だけでなく、雲に映る光の変化も綺麗で面白い。
日没前15分頃の夕景
日没前5分頃の夕景
日没直前の夕景
日没
留萌の黄金岬キャンプ場には、キャンピングカーや私達のような車中泊組、オートバイの若者などが集まっている。
お酒を嗜みながら、お国自慢や旅行の情報収集などで賑やかなキャンプ場。
私たちは明日の好天を願って、早めにシュラフに潜り込んだ。
・オジロワシ歌壇
・嫋やかに風の型に揺れている
ワタスゲ愛し雨竜湿原・先々に止まる糸蜻蛉の青深く
魅せられし吾をどこに導く・沈む陽を磯に遊びて待つ子らは
杳き日の吾夕焼け小焼け・陽は落ちて明るさのこる夕空を
かもめと見ている黄金岬