浮かぶ下弦の月と十勝岳の紅葉
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・十勝岳
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新得コースの登山口はトムラウシ温泉の約10Km手前の曙橋で左折、シートカチ林道最初の分岐で左折して12Kmほどでシートカチ第5林道に入って登山口へ向かうのであるが、この日はシートカチ林道の途中で通行止めになっていた。
そのため、その手前のレイサクベツ林道に入り「秘奥の滝」を通って登山口へ向かった。登山口で車を降りると、思わず「寒いね〜!」
気温は-4℃、今季初めてのマイナスで気持も引き締まる。歩き出してしばらくは視界が利かないが、立派なエゾマツが林立する道で明るく気持が良い。
しばらく歩くと樹林が切れて見晴らしの得られる所へ。「少し早かったかな〜?」
前回は紅葉に染まった赤いラインがあちこちに伸びていたのだが、今年はまだ茶色っぽい塊が点在しているだけだ。
紅葉の赤が目に入らない。右に美瑛岳、左のピークの奥が十勝岳
お天気は素晴らしく、風も今のところ弱い。
十勝岳から美瑛岳の稜線がしっかり見え、美瑛岳の鋭い山頂部が迫力満点だ。その北にはオプタテシケ、トムラウシの姿もスッキリと見えている。
オプタテシケ(左)と、トムラウシ(右)
小1時間で道は上ホロカ川の支流沿いに、2度ほど支流を渡るのだが増水していて靴を濡らさずに渡るのは難しそう。
裸足になって渡ろうかとも考えたが、試しに私が濡れるの覚悟で飛び石伝いに渡ってみる。
くるぶしの下まで水に入ったが防水のお陰で濡れずに突破、カミさんも強行突破した。渡るのにヒヤヒヤ 苦労したけど、川沿いを歩くのは気持が良い。
朝の冷気を受け、滔々と流れる水を眺めているだけでも心癒される。
流れに癒やされつつ
沢の上流に「一条の滝」が掛かっている所には、まだ雪渓が残っている。
前回の時には無かったから、今年の雪の多さが計り知れる。
「一条の滝」の下で
さすがに雪渓は薄くなり、とても乗る気にはなれない。
でも溶ける前に新しい雪が降り冬が来るのは確実だ。
まだ雪渓が残っていた
雪渓の脇を進んでいくと、小さな草が今生えてきたような色つやをしている。
良く見ると、何と花芽を持っている。
彼らにとっては今が春なのだ。まさか紅葉を楽しみに来て、春の花を見ようとは・・・。
エゾノツガザクラやエゾコザクラが見事に咲いている。
早く咲いて、実を付けなくては・・・、「頑張れよ!」 と思わず声援を送る。
エゾノツガザクラ
エゾコザクラ
「一条の滝」下の雪渓から尾根に取り付いていく。
しばらく急な登りを耐えると、広場に出る。
標高1410mの雪田である。前回の時は雪はなく、雪田跡だったが今回は小さいながら雪田が残っていた。
辺りを見回すと、境山や下ホロカメットク山方向に、待望の赤い紅葉ラインが見え出した。
雪田のすぐ上にも紅葉の赤い帯が伸びている。
赤い紅葉ラインが見え出した。左は下ホロカメットク山、正面が境山
楽しみにして来た紅葉、雪田でのんびり休憩しながら堪能する。
下ホロカメットク山を背景に美しく色付いた紅葉
見事な彩りはまだ一部だけど、緑から黄色、黄色から橙、そして赤へと変わるグラデーションは華やかで美しい。
緑とのコントラストも見事なものだ。真っ赤に染まった紅葉と紺碧の空、そしてそこには下弦の月が浮かんで、幻想的な雰囲気すら漂っている。
お月様と紅葉
美しい紅葉を楽しみ、山頂目指して歩き出す。
一登りすると樹林は切れ、剥き出しの火山灰が広がる火山特有の荒涼たる世界が現れる。
死んだハイマツの枝が白く累々と重なり合い、異様な光景だ。
火山岩と火山灰だけが広がる荒涼とした世界
歩くコースは点々とペンキマークで示されているが、目標物など無くガスが湧いた時などは要注意。
思わずGPSが正常に作動しているかC'Kした。
北にはオプタテシケやトムラウシ、石狩岳がその勇姿を惜しげも無く見せている。
正面のピーク奥に山頂はある
前回はこの辺りで強風に立っていられず、危険を感じて撤退した。
この日も標高1600m〜1800m位の間は風が強く、パーカーを着込み防寒手袋を着用する。火山灰だから乾いているのかと思っていたら、粘土質でグチャグチャ。
滑るし、靴やストックにベタベタ付いて始末に悪い。その火山灰の斜面には縦に亀裂が無数に走り、独特の地形を見せている。
火山灰、独特の地形
その亀裂には雪や水が溜まり、厚く凍っている。
デブリだろうか?
火山灰に覆われた雪が高さ数mの何本もの黒い土手のようになって流れ出て、コースを塞いでいる。
亀裂の中には、水が凍りついていた
次第に急になる火山灰の斜面、グチャグチャ斜面に耐えながら一歩一歩稜線を目ざす。
もう標高は2000m近い。
滑る急斜面を慎重に 後ろにはニペソツやウペペサンケなどがズラリ
滑る急斜面を耐えに耐え、やっと稜線に登りついた。
何度か歩いた、十勝岳〜美瑛岳の稜線だ。「待っていたよ」と十勝岳山頂がお出迎え。
だが、今まで快晴状態だった空に薄い煙のような雲が立ち始めている。
稜線から美瑛側を見るとポツリポツリと纏まった雲が沸き立ち、こちらにやってくる気配。
急がなくては・・・。
十勝岳山頂 快晴だった空に雲が湧き始めた
滑らない安定した火山灰の斜面に足が喜んでいる。
最後に岩混じりの斜面を一登りすれば、十勝岳山頂だ。
数人の人が寒そうに岩陰で風を避けている。間に合ったかと振り向けば、何と美瑛岳の山頂に雲がかかり始めて見えなくなっている。
「ああ無情! 神様のいたずらか?」
美瑛岳に雲がかかり始め・・・
少し待てば雲は切れるだろうと、岩陰でお昼にする。
ドライフルーツやナッツの入ったパンが美味しい。雲の切れ間から火口や美瑛の町並み、旭川市街などが見えるが、雲は多くなるばかり。
山頂から噴煙を上げる火口と 遠く美瑛や旭川の市街を見る
上ホロカメットク山方向も雲で覆われだし、避難小屋がかろうじて見える程度。
迫力ある火山風景はお預けだ。
上ホロカメットク山方向
リンゴやおやつを暇つぶしに口にするが、雲は切れない。
お行儀を良くしないから、こういう目に合うのかな?
景色は霞んでしまったが
境山、下ホロカメットク山がかろうじて姿を確認できる。
十勝岳山頂から下ホロカメットク山と境山
小1時間、雲が切れるのをじっと待ち続けたが、我慢の限界。
寒くなってきた。次は自慢の大展望をきっとみせてね。と語りかけ下山に移る。
グチャグチャ火山灰の斜面は滑って嫌らしいが、登りより下りはやはり楽だ。
1時間で雪田まで降りてきた。
石狩岳やニペ、ウペペサンケ、然別湖周辺の山々などを見ながら下る
雪田から下は風も弱まり、渡渉に苦労した沢も下山時には減水していて、何の問題もない。
樹林の中の景観に癒やされつつ登山口へ戻った。
登山口からの林道からは美瑛岳の姿が凛々しく美しく眺められ、名残を惜しんだ。
キロの林道から美瑛岳
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十勝岳新得コースのGPSトラック図