神威岳山頂からのソエマツ岳と主稜線
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神威岳
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林道から沢に出て遡っていく。
空はどんよりした曇り空、雲は低層雲で流れは結構早い。
要所要所に付けられたピンクテープやケルン状の石積みを見逃さないよう注意しつつ、渡渉したり巻き道を通りながら進んでいく。
渡渉は何回もあるが、いずれも山靴でも濡らさずに渡れる深さ。
私達は沢靴だからジャブジャブ渡る。所々ヤマハハコやエゾトウウチソウが薄暗いに目立っている。
エゾトウウチソウ
歩き始めて約1時間、流れの綺麗な所で一休みしようと思った時である。
カミさんが足を滑らせ転んだ。
転び方が悪かったのか、直撃ではないけれど顔を打ち起き上がれない。サングラスの左目レンズにかなり大きな傷が入り、左頬骨を打ったようだ。
平らな石に座らせ、タオルを濡らし冷やす。
しばらくして本人は大丈夫と言うけれど、無理してはならない。
引き返すことも頭に入れてしばらく様子を見る。何度かタオルを濡らし冷やしていると、そんなに腫れてくる様子はない。
カミさんも痛みもないし、大丈夫だと言う。
痛みや腫れが出るようなら引き返えすと決め、尾根取り付き地点へ向かう。光をたっぷり浴びていればさぞ美しいだろうと思う水の流れも、気持ちのせいかイマイチだ。
水の流れを見ながら上流へ
尾根の取り付きへ来た。
カミさんの様子を確認、幸い腫れも少なく痛みもない。打ち付けた患部を冷やしながら、沢靴を山靴に履き替える。
この間に、札幌からのパーティがやって来て先行する。
休みもせずに尾根に取り付く体力が羨ましい。
尾根取り付き付近
登ることに決定、標高差900mの愚直なまでの一気登りに突入だ。
見通しの効かない樹林の中の急斜面、元気をくれる花も景色もない。
短くしたストックに頼り、笹に頼り、木の根に頼る。
休んで停まっていては進まない「この一歩、この一歩」だけが信頼できる唯一の道だ。
体が重い、錨を引きずっているのではと思うほど重く感じる。
思うように足が上がらない、これが歳というものなのか?
それとも今日の体調が思わしくないだけか?
そんなことを考えつつ足を交互に出していると、
「何だか今日は足が軽いわ!」
「ええ〜? 本当かよ、半分で良いから分けてほしいな」狭く急な斜面、腰を下ろす所もないから立ったまま一息入れる。
ドライフルーツが唯一の元気の源だ。カミさんに先を歩いてもらうと、グングン差が開く。
頼むから待ってくれ〜。そんな思いで頑張ること1時間半強、やっと主稜線が間近に迫ってきた。
奥には中岳から延びる支尾根も見え出した。
ニシュオマナイ岳へ延びる主稜線
日高主稜線に合流し、やや傾斜の緩んだ斜面を進むと今まで見えなかった十勝側が見え出した。
十勝側の平野が見え出した。
もう山頂までは15分か20分と気が緩んだわけではないが、カミさんが2・3度咳をした。
あれ?と思ったら、本人が「チョット変、吸入するわ」喘息発作の初期症状、気管が急に狭まり息ができなくなってしまうのだ。
急いでザックを下ろして吸入薬を使う。
適切に処置すれば5分もすると気管が開き呼吸も平常となる。斜度が緩んだ腰を下ろせる場所で良かった。
呼吸が平常に戻るまで、約15分静かに休んで発作が納まるのを待つ。
二度のハプニングがあったけれど、実質4時間と少しで神威岳に初登頂したカミさん。
山頂に着くと札幌のグループが拍手で出迎えてくれる。
ありがとう!せっかくの初登頂なのに、山頂は雲の中。真っ白だ。
風はやはり南風、悪い予感が当たってしまったようだ。
山頂標識の脇に腰を落ち着け、マロングラッセで乾杯代わり。雲の流れは速く、雲底は丁度山頂すれすれ。
雲が切れるとソエマツ岳が見え出した。
ヒマラヤ襞が強者ぶりを強調している。
ソエマツ岳が雲の切れ間から
登ってきた尾根も時々姿を見せる。
雲を巻き上げ、中々の迫力だ。
登って来た尾根
風が結構あり寒いぐらい。
ダウンを着込み、雨衣の上着を羽織る。スッキリした大展望はもちろん素晴らしく嬉しいが、雲を纏う山々も味がある。
そんな雰囲気の中で写真に収まる。
神威岳 山頂にて
主稜線の山々は残念ながら雲に隠れている、ニシュオマナイ岳だけが時折姿を見せてくれた。
ニシュオマナイ岳へ続く主稜線
札幌のグループは下山にかかる「お気をつけて」と見送り、私達はもう少し山頂での一時を楽しむ。
二度のハプニングに襲われたけれど、喘息は大事に至らなかったし、顔の傷もわずかに腫れた程度で収まった。
これからも色々なことが起きるだろうけれど、今をその時々を乗り越え楽しんでいこうとおしゃべりが続く。初登頂の記念に山頂標識で一枚。
初登頂の記念に
そしてもう一度雲漂う南日高の山々を眺め、私達も下山することに。
神威岳の直登尾根、下りも一筋縄ではいかない。
ストックを頼りに大きな段差を飛び降り、木の根に掴まりずり落ち、笹に掴まってすべり止め。夢中で降りて気が付くと、頭上には青空が広がり燦々と陽の光が照りつけ始めた。
もう少し早く日差しに恵まれれば大展望がと悔やまれる、が今更登り返す元気はない。紅葉した木々に光が差し込み華やかな色合いだ。
光が差し込み、美しい紅葉が広がる。
尾根の取り付きまで降り、沢靴に履き替える。
再び、ピンクテープと石積みを見逃さないよう注意し合い沢を下る。青空は時間とともに広がって、狭い谷からは青空と山の頂と紅葉で一杯だ。
青空と光と紅葉で溢れる谷筋
沢水も光を受けて透明感を増し、キラキラ輝いて美しい。
水の波紋もきらびやかで美しい
丸太を渡ったり、鹿ヌタの脇を通ったりしながら、どうやら無事にカムイ山荘へ戻ってきた。
山荘横からは神威岳が「また来れるかな?」と見送ってくれていた。
カムイ山荘近くからの神威岳
余談ですが、翌朝目覚めた私達「痛てて!痛てて!」と階段を登り降りする度に激しい筋肉痛。
ピョコタン・ピョコタンみっともない姿を晒したのでした。
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